今回は公認会計士の方で、バリュエーション(企業価値評価)について、今後経験を積みたいと考えている方に対してその概要と、キャリア上のポイント等を書いていきたいと思う。

 

そもそも、バリュエーションとは何か?

バリュエーションとは企業価値評価のことであり、投資価値を計算する一連の手続きを言う。

バリュエーションを実施する趣旨は様々だが、代表的な目的は次のとおりである。

・M&A等における投資対象の価値を知る。

・投資の採算の観点から問題ないか検証する。

特にM&Aにおける買収対象企業の価値算定は、投資銀行やFASでよく行われる実務であり、公認会計士が活躍しやすい分野であろう。

評価手法には、類似上場会社比較法・類似取引比較法・DCF法・市場株価法・簿価純資産法、修正時価純資産法がある。

類似上場会社比較法は、対象会社と規模や事業面で類似する上場会社の倍率(PERやEV/EBITDA)を参照し企業価値を計算する手法である。

類似取引比較法は実施を検討するM&A取引と過去に類似したセクター・地域でM&A案件がなかったかを調べ、過去5-10年分の取引の倍率(EV/EBITDA倍率など)を参照する方法である。

DCF法(Discounted Cash flow法は、将来キャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を計算する手法である。

簿価純資産法および修正時価純資産法は­、貸借対照表に計上された純資産簿価、もしくは当該純資産簿価に資産の時価評価等による影響を加味し、バリュエーションを実施する手法である。この手法は将来キャッシュフローの現在価値ではなく、あくまで一時点の純資産の金額を計算するため実務上メインで使用されることは少なく、あくまで参考値という取り扱いが多い。

バリュエーションの結果は、M&Aを実施する企業の経営陣が対象会社の価値をどのように評価するかを明らかにし、投資銀行のバンカーにとっても買収もしくは売却の交渉時の参照値になるので、M&Aの実施主体にとって有用な情報を提供するものである。

また商社や事業会社の投資部門でも、投資対象会社の価値を測定し投資の採算性を検討するのに役立つという側面がある。

 

バリュエーション業務の流れ

バリュエーション業務は、主にM&Aアドバイザリー業務の中で経験することが多い。

実際のM&Aのプロセスではバイサイド・セルサイド案件(バイサイドは会社の買収案件、セルサイドは会社の売却案件)により異なるものの、バイサイドでは買収対象会社の企業価値を計算し、事業価値および株式価値のレンジを推定することで、買収する際に提示する価格のレンジをクライアントに提案する段階で必要になる。

セルサイドのM&A案件では売却対象企業のバリュエーションのレンジを予め試算しておくことでクライアントへの提案書作成時に「この会社はXX円で売れますよ」という示唆を与えることが可能になり、より高い価格で会社を売却したいクライアントにとっての重要な情報になる。

DCF法を実施する上では、(一般事業会社の案件であれば)キャッシュフローを期央主義で割り引いたり、加重平均資本コスト(WACC)を適切な水準に計算する、デューデリジェンスでの発見事項を反映し標準化EBITDAを計算するなど、コーポレートファイナンスと会計のテクニカルな論点を反映しながら進める必要がある。

 

バリュエーション業務では、ただ数字の計算をするだけではなく、M&Aの全体プロセスを理解しながら進める必要がある。具体的に述べると以下のような内容である。

初期的な段階ではクライアントや売手の投資銀行等が用意するVDR(バーチャルデータリーム)で対象会社の事業計画の詳細が分からなければ、まずは対象会社の類似上場会社を選定し、PERやEV/EBITDA倍率、DCF法により企業価値を計算することで、概ねの事業価値を試算することが多い。これは売却案件でも買収案件でも同様に行い、チームやクライアント内でバリュエーションの目線を共有することができる。

実際に案件においてクライアントに対しディスカッション資料を提供する際には、入手可能な情報を用いてEV/EBITDA倍率、DCF法などを利用し、アドバイザーとして企業価値のレンジを提示する。

 

他のM&Aプロセスとの関わりで言うと、デューデリジェンスで検出される正常収益力(調整後EBITDAや売上高)やネットデットの情報を適時に反映してバリュエーションを更新する必要がある。またデューデリジェンス後の株式譲渡契約書(SPA)の交渉の段階では、意向表明書で提示した条件やバリュエーションを基礎に価格の交渉を行うということが大事になるので、バリュエーション業務の中で提案される事業価値・株式価値の数値の正確性・適格性は重要である。

 

バリュエーションの面白さとは?

バリュエーションの面白さは、会計士試験全般を通じて学習する会計学と、試験科目の経営学などで学習するコーポレートファイナンスの基礎を実務に活かしM&Aアドバイザリーや投資業務、人によってはCFO業務にも応用できる汎用性が高いスキルを身に付けられることにある。

やりがいに関しては、タイトなスケジュールの中でクライアントに財務的にも事業面でも大きなインパクトのあるM&A実務の中で対象企業の価値を計算することでクライアントの役に立つことが挙げられる。また、デューデリジェンスや財務モデル作成と並行して、対象企業の財務と企業価値を検討することでクライアントに対し適切な買収価格や売却価格を提示することができ、数字に強みのある会計士にとっては知的好奇心とダイナミックな投資・アドバイザリー実務に関与できる点が挙げられる。

 

バリュエーション業務は、会計というよりもコーポレートファイナンスの側面が強いので、会計士試験などを通じて得た会計・ファイナンスの知識を前提にして投資銀行の研修教材をもとに何度もエクセルのモデルを回すことで身に付け、実務での色々な論点をその都度インプットしながら、アウトプットしていくという姿勢が必要になる。そのため、自分で能動的に学習する姿勢がある人に向いていると思われる。

また、コーポレート・ファイナンスの面白さも業務を通じて掴めるのも醍醐味の一つである。その会社の収益性のみならず、ビジネスモデル等を理解してどれくらいのキャッシュ創出力があるのか、この会社をDCF法で計算する際に割引率(加重平均資本コスト(WACC)をどの水準で計算するのが妥当か、DCF法や類似取引比較法、類似上場会社比較法で計算された企業価値のレンジを検討する段階で、第三者的な立場で企業価値を理論に沿って試算して合理的な範囲で企業価値のレンジを提案できるところに面白みがあると思われる。他にも監査業務に付随して必要になる減損テストやPPAなどの業務でバリュエーションの将来キャッシュフローの割引計算などバリュエーション業務に必要な素養が求められるので、実際の会計基準で求められる割引現在価値を実際に自分の手で計算することによる面白さも会計士にとってはあると思われる。

 

バリュエーションに求められる能力

バリュエーション業務で求められる能力はエクセルの実務能力とコーポレートファイナンスに関する知識と理解であろう。

エクセルについては監査法人でも基礎的なショートカットなどは習うと思われるが、バリュエーション業務であれば、より実務的かつ多くのショートカットキー、資料を綺麗に作成する上でのテクニックなどを実務を通じて学ぶことができるのでハードスキルが向上するものと思われる。

会計とファイナンスの違いについて最初は戸惑うこともあると思われるが、会計士であればバリュエーション業務の飲み込みは早いと思われるので業務上悩むことはあまりないと思う。ただし、案件に応じて様々な論点(将来のEBITDAの数値をどのように見積もるか、繰越欠損金がある場合に、繰越欠損金の使用による節税効果など)あるので、クライアントに対する資料作成において何を考慮するか、投資銀行というファイナンスのプロフェッショナルが判断して、どのようなレンジの企業価値で提案するのが望ましいかというのは誰でも悩むところではあるし、チームでディスカッションして良い落としどころを見つけるのが重要になる。

いずれにせよ個人のスキルと、計算結果を資料で適切に説明できる文書作成・資料作成能力や、社内外の関係者とのディスカッション等のチームプレイが要求されるので円滑にコミュニケーションができる能力が求められる。

 

バリュエーション業務のメリット

会計士がバリュエーション業務を経験するメリットは、会計以外にファイナンスという第2の武器ができ、将来的に投資銀行や投資ファンドへの転職が視野に入り、年収アップや希少性の高いキャリアの実現が可能になるという点である。

日系・外資系投資銀行でも会計士試験の合格者や公認会計士の方は一定数在籍されており、キャリアアップに有用なスキルであると言える。他にも、投資銀行やファンドのような外部の金融系の企業のみならずFASで経験できる業務でもあるので、将来的に独立を検討している会計士の方であれば、会計や税務以外に企業価値評価のようなアドバイザリー業務を自社のサービスに加えることもでき、業務の幅やクライアントへのサービスラインを多様化させることができるというメリットが挙げられる。実際に筆者の知り合いの会計士でもFASのバリュエーションチームから独立して、自分の事務所を持ちバリュエーションサービスなどを提供している人もおりクライアントに対し高い付加価値を提供している人もいるので、キャリアの一つとしてご一考頂ければ幸いである。

 

 

バリュエーションが経験できる転職先

会計士は基本的には会計の知識があるという判断がされやすい一方で、バリュエーション業務の経験があれば、ファイナンスにも強くM&Aアドバイザリー等の業務でも即戦力という印象を与えることができる。そのため投資銀行やファンドへの転職活動時には非常に評価された経験がある。転職先でのバリュエーションの経験については、筆者は投資銀行でのM&Aアドバイザリー業務をしていたので、バリュエーションの経験はクライアントへの提案やセルサイド・バイサイドM&Aでの対象会社の企業価値評価で経験者としてすぐに活かせた経験がある。