税理士法人に転職した会計士が得られる「経験」と「キャリア」とは?

税理士法人に転職した会計士が得られる「経験」と「キャリア」とは?

公認会計士・税理士の藤沼です。

監査の次の武器として、「税務」を視野に入れる会計士は多いでしょう。

では、税理士法人で得た経験は、その後どのように活かせるのでしょうか?

今回は、実際に税理士法人に転職した会計士へのインタビューをもとに、税理士法人でのキャリアを解説します。

この記事を書いた人

1986年生まれ(38歳)
公認会計士税理士

2014年 EY新日本監査法人 入社
2018年 中堅コンサル事務所 入社
2019年 藤沼会計事務所 開業
2020年 アカウントエージェント株式会社 代表

情報インタビュイー
M.Kさん

38歳
公認会計士税理士

  • 2012年  2月 KPMGあずさ監査法人 入社
  • 2016年  3月 大手税理士法人 入社
  • 2019年  7月 中小税理士法人 入社

目次

会計士が税理士法人に転職したときの仕事内容

会計士が税理士法人に転職したときの仕事内容

税理士法人での仕事内容は、大きく3つに分けることができます。

  • 記帳代行
  • 税務申告
  • その他、税務コンサルティング

それぞれ内容を見る前に、まずはどの税法に携わる可能性があるのか、税種から確認しましょう。

① 携わる税務領域

BIG4か中小税理士法人かで少し守備範囲が変わるため、それぞれ比較形式で示しました。

 関与する税種の比較

BIG4中小
法人税・事業税
消費税
所得税
その他、コンサルティング
・組織再編関連
・国際税務関連
・相続税
・係争関連

大手なら領域特化、中小なら幅広く担当できる、という傾向は監査法人と変わりません。

また、BIG4では基本的に個人の税務申告を取り扱いませんので、所得税に触れることはまずありません。

② 記帳代行

記帳代行とは、日々の取引仕訳を会計ソフトに入力していく作業(を代行する作業)をいいます。

この業務は、通常クライアント企業側で行うケースが多いですが、経理のマンパワーが足りないような場合には税理士法人のサービスとして代行することになります。

ただし、BIG4では通常このようなサービスは受けず、中小税理士法人の方が関与する頻度は多いです。

証憑をもとに入力をしていくため、非常に細かくルーティン化された作業になります。

③ 税務申告

税理士法人でのメインとなる業務が、税務申告です。

すなわち、クライアントの税務申告作業を代行する業務です。

流れはシンプルで、クライアントから申告に必要な資料を入手し、それを元に確定申告書を作ります。

例えばBIG4の場合、大体4名程度のチーム編成(スタッフ+シニア+マネージャー+パートナー)で行うことが一般的です。

作業はまずスタッフが申告書を作成し、それをシニア→マネージャー→パートナーの順でレビューするという流れになります。

ちなみに、税務経験のない会計士が税理士法人に転職した場合、(基本的には)スタッフとして採用されます。

④ 税務コンサルティング

メインとなる税務申告以外に、コンサルティング業務があります。

ニッチなフィールドも含めると種類はとても多いですが、代表的なフィールドは次のとおりです。

税務コンサルティングの例
  • 組織再編税制関連
  • 国際税務関連
  • 相続税関連
  • 係争関連

組織再編税制関連では、たとえばM&Aを行う際の税務上有利な買収スキームの提案などがあります。

国際税務関連では、たとえば移転価格税制のアドバイザリーなどがあります。

いずれも専門性が非常に高いため、BIG4の専門部署で対応するケースが多いですが、一部の中小税理士法人でもサービスを提供しています。

報酬単価が高く花形的なチームではあるものの、税理士の主戦場でもありますから、参入にはある程度のバックボーンが必要です。

大手税理士法人(BIG4)と中小税理士法人の違い

大手税理士法人(BIG4)と中小税理士法人の違い

大手か中小かで、経験できることなどが大きく異なります。

両者の違いをそれぞれ解説します。

① 専門性・品質

監査法人出身の会計士の方であればイメージできると思いますが、BIG4での税務は専門性が非常に高いです。

たとえば以下の税務コンサルティング業務は、主にBIG4で関与するサービスです。

  • 組織再編(M&A)に関連する税務
  • 国際税務(移転価格税制など)に関する税務
  • 事業承継の支援や相続税に関するアドバイザリー
  • 税務調査税務係争への対応

これらは高い専門性が要求されるため、知見の多くがBIG4に蓄積されています。

もちろん、中小税理士法人でもこれらのサービスを提供するケースはありますが、品質はBIG4に劣ります。

もし、これら専門性の高い税務領域でキャリアを積みたい場合には、BIG4を選ぶのが最も手っ取り早いでしょう。

一方、中小税理士法人では基本的に「記帳代行」「税務申告」を主たるサービスとしています。

② クライアントの規模/種類

BIG4は、基本的に大規模クライアントがメインです。

また、外資系企業の割合が多いのも特徴です。(多少、英語の資料も増えます)

一方で 中小監査法人のクライアントは、大企業から中小企業まで様々ですが、BIG4に比べて外資系企業の割合は少ない傾向にあります。

③ サービスの上流/下流

BIG4で取り扱うサービスは、上流のサービスが多いです。

すなわち、「記帳代行」などのサービスは基本的に受けず、「税務申告」がメインとなります。

これは、BIG4のクライアントは規模が大きく、記帳自体はクライアント自身で行える能力・マンパワーがある為です。

一方、中小税理士法人のクライアント規模は少し小さくなりますので、「記帳代行」などの下流サービスも提供するケースが一般的です。

④ 同期が多い

当然ですが、BIG4の方がスタッフの数が圧倒的に多いです。

またご参考までに、税理士法人では10月入社の方が圧倒的に多いです。

これは、税理士試験が8月に実施され、その後すぐに就活を始める方が多いからです。

もし「同期を増やしたい」という方がいたら、10月に併せて転職をすると良いかもしれません。

税理士法人での繁忙期・閑散期

税理士法人での繁忙期・閑散期

税理士法人の繁忙期は、12月頃~5月頃の半年間です。

BIG4とそれ以外(中小税理士法人)で、少しだけ傾向が異なりますので、かんたんに解説します。

① 大手税理士法人

大手税理士法人では、外資系クライアントの割合が多いため、12月決算会社への対応が増えます。

年末調整の時期とも被ることから、12月から一気に忙しくなるのがBIG4の特徴です。

3月は少しだけ落ち着くものの、3月決算会社の対応に追われるため、引き続き忙しくなります。

そして3月決算会社の申告作業が4~5月と続きます。(ここが一番キツい)

加えて  変則決算会社がある場合は、さらに繁忙期の期間は増えます。

BIG4は総じて残業時間が多く、激務であると想定しておきましょう。

② 中小税理士法人

中小税理士法人では、(BIG4に比べれば)外資系クライアントの割合は少ないため、12月から徐々に忙しくなるイメージです。

ただし、BIG4とは異なり個人・役員等の所得計算も行うケースがあるため、3月も勢い衰えることなく忙しくなります。

その後はBIG4と同様ですが、3月決算会社の申告時期(5月)まで忙しさが続きます。

当然ながら、変則決算がある場合には それ以外の時期も忙しくなります。

なお、中小税理士法人の中には「残業がほぼない」という法人もあり、この点はBIG4と大きく異なる点と言えます。

税理士法人での公認会計士の年収

税理士法人での公認会計士の年収

結論から言えば、公認会計士が税理士法人に転職すると、年収は下がる傾向にあります。

大手監査法人と税理士法人の年収比較

全国平均年収東京平均年収
大手監査法人648万676万
税理士法人619万672万
(会計系転職エージェントから求人データを抽出し作成)

BIG4から転職すると、全国平均では4%~5%ほど平均年収が下がる、という傾向が分かります。

税務系業界は人口が多いため、平均年収も下がりやすいのです。

なお、上記年収の算出過程・その他職種の年収について等、詳しくは 会計士が転職すると、年収はいくらになる?【全職種調べてみた】で解説しています。

また余談ですが、税理士が税理士法人に転職した場合には、更に年収水準が低いです。(参照:税理士の年収と現実を、あらゆる角度から詳細分析してみた。

会計事務所・税理士法人で働く税理士の年収

全国平均年収東京平均年収
税理士560万619万
(会計系転職エージェントから求人データを抽出し作成)

このことから、「税理士法人で働く会計士の年収が低い」のではなく、「税務業界全体の年収が低い」ということが分かるでしょう。

会計士が税理士法人に転職するメリット

会計士が税理士法人に転職するメリット

税理士法人を転職先として選ぶメリットは、大きく2つあります。

会計士が税理士法人に転職するメリット
  1. 税務スキルが最短で身に付く
  2. 税務以外の周辺スキルが身に付く可能性

それぞれ解説します。

① 税務スキルが最短で身に付く

会計士の転職先の中で、最も税務のスキルを高めることができるのが、税理士法人です。

会計事務所でも税務スキルは身につきますが、組織の小ささゆえ、総務的な仕事も振られるケースがあります。

中小税理士法人であれば、主に法人税関連(記帳から申告まで)を経験でき、BIG4であれば加えて専門性の高い税務を経験できます。

ただし税理士法人では、「所得税」などの個人向け税法に関与する機会が減るため、この点はご注意ください。(特に独立志向の方)

② 税務以外の周辺スキルが身に付く可能性

中小税理士法人の場合、業務/分担が特化されていないため、税務申告以外にもIPOやM&Aなどに関与できるケースがあります。

こうしたプロジェクトでは、税務スキルを身に付けながらIPOやM&Aの流れを知ることができるため、付随的に潰しの効くスキルが身につきます。

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会計士が税理士法人に転職するデメリット

会計士が税理士法人に転職するデメリット

税理士法人を転職先として選ぶデメリットは、大きく3つあります。

会計士が税理士法人に転職するデメリット
  1. 基本的に忙しい
  2. ルーティンワークが多くなる可能性
  3. キャリアが狭まる可能性

それぞれ解説します。

① 基本的に忙しい

先述のとおり、税理士法人は(一部の中小法人を除けば)基本的に忙しいです。

税理士法人職員の退職理由も「監査法人が忙しくて疲れた…」というコメントが多く見られます。

「監査法人での激務に疲れたので転職したい」という方は、タックスを選択すべきではないと思います。

なお、ワークライフバランスを改善したい方は、ワークライフバランス重視の経理または中小監査法人がオススメです。

働き方を劇的に変えることがでるでしょう。

② ルーティンが多くなる可能性

申告業務は、基本的にルーティンワークです。

「監査はつまらない」という声をよく聞きますが、税務申告も同じくらい、面白味に欠けると感じます。

税務は監査とは違ってアドバイザリー的な部分がありますが、申告額を誤った場合には高いリスクを負うため、本質的に監査と似ています。

ただし、一部の専門性の高いサービス(国際税務、M&Aなど)では、ルーティンワークの割合は減るでしょう。

③ キャリアが狭まる可能性

後述しますが、税理士法人からのキャリアは少し狭くなる傾向にあります。

会計・ファイナンス業界に比べると、税務業界は(会計士にとっては)転職先が限定されるのです。

また、「会計×税務」という2つの武器で希少価値が出せるのでは?と考える方もいると思いますが、私はやや懐疑的です。

というのも、確かに会計と税務は親和性があるものの、それぞれ棲み分けがなされているのです。

たとえば監査法人においても「税務スキル」は用いますが、ハイレベルな知識は求められません。

また、FASではファイナンスチームと税務チームに分かれるため、ハイブリットな能力は求められないのです。

※ 税務の分野で活躍している会計士もたくさんいますので、必ずキャリアが狭くなるという訳でもありません。(あくまで一般的な傾向のお話です)

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税理士法人は、独立向き?

税理士法人は、独立向き?

会計事務所として独立をしたいのであれば、税理士法人はあまりオススメしません。

税理士法人でのクライアントは大企業が多いですが、一方で、会計事務所でのクライアントは中小企業がメインだからです。

「独立のために」という目的があるのであれば、私は会計事務所をオススメします。

なお、独立志向の会計士の方には独立開業を見据えた会計士が選ぶべき転職先と、具体的な選び方を解説。の記事が参考になるはずです。

ただし、例外あり

例外として、ニッチな専門分野で開業(起業)するのであれば、BIG4税理士法人への転職はアリだと思います。

たとえば国際税務周りの知見には希少価値があり、ニーズが多く、報酬単価が高いです。

「国際税務に強い」というブランディングは武器として弱い(BIG4に負ける)ですが、例えば更に細かく「移転価格の〇〇に強い」などニッチなフィールドを見つけて勝負するのはアリだと感じます。

そのような専門的スキルは、BIG4でしか得ることができませんから、コレを狙ってBIG4に転職する戦略はアリです。

ただし、そのためには転職前に「どのフィールドが勝負のできるフィールドか」を見極め、戦略的に転職活動をしなければなりません。

当然ながら「どのフィールドだと起業できるのか」といった情報は探しても出てきませんので、(通常の独立開業に比べれば)難易度は高いでしょう。

会計士が税理士法人を卒業した後の転職先

会計士が税理士法人を卒業した後の転職先

私たち会計士が税理士法人を卒業した後の選択肢は、主に次のとおりです。

税理士法人卒業後の転職先
  • 事業会社(税務部門)
  • FAS(税務アドバイザリー部門)
  • 会計事務所
  • 他の税理士法人

税理士法人というキャリアを経た後は、方向性として「税務」に大きくシフトすることになります。

税務と会計は親和性があるのですが、キャリアの掛け算には適していません。

なぜなら、「税務は税理士、会計は会計士」といったように、活躍のできるフィールドが区分されているからです。

そのため、会計士が税理士法人に転職すると、その後のキャリアが若干狭まる傾向にあります。

明確な目的がなく、「とにかく監査法人を辞めて転職がしたい」という方は、安易に税務を選択しないように注意して下さい。

税理士法人への転職難易度

税理士法人への転職難易度

監査法人出身の会計士の方なら、(30代までであれば)税理士法人はほぼ100%内定が出ます。

今回インタビュイーのM.Kさんも、5法人(大手2社、中小3社)に応募し、全社書類通過、全社内定を得ています。

ただし、40代を超えると何らかの税務経験が必須になりますので、難易度がグッと上がるでしょう。

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税理士法人・公認会計士に強い転職エージェント

税理士法人・公認会計士に強い転職エージェント

最後に、会計士におすすめの転職エージェントを紹介します。

  • マイナビ会計士(おすすめ)
  • レックスアドバイザーズ
  • ジャスネットキャリア

税理士法人への転職なら、マイナビ会計士1択です。

なぜなら、唯一の会計士専門のエージェントであり、税理士法人の求人数がNo.1だからです。

先述のとおり、税理士法人は(想像以上に)専門性の高いフィールドです。

転職先・配属される部署・チームによって、携わるタックスのフィールドも異なります。

応募の前には必ず、「何が経験できるのか」を転職エージェントからヒアリングし、自分にマッチした求人を選び抜きましょう。

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