公認会計士・税理士の藤沼です。
FASの中でも、少しニッチな「フォレンジック」というキャリアをご存知でしょうか。
そこで今回は、実際にフォレンジックへ転職した会計士へのインタビューをもとに、「仕事内容」や「キャリア」を解説します。
目次
そもそも、フォレンジックとは何か?

フォレンジックとは、直訳で「調査」を意味します。
具体的には、次の業務がフォレンジックでの仕事内容になります。
フォレンジックでの仕事内容(例)
- 会計不正調査
- M&Aに関連する係争事件
- 危機対策支援
- 海外法人に対する不正調査
- 製品データ偽装の調査
- サイバー攻撃に関する調査
- 情報漏えいに関する調査
- インサイダー取引の調査
- 時間外労働・残業代の調査
- デジタルフォレンジック など
かなりフィールドが広く、調査の対象は多種多様です。
なお余談ですが、「フォレンジック」という言葉に馴染みのない会計士の方は多いと思います。
それもそのはず、実はフォレンジックはIT分野から派生(セキュリティ攻撃に対する調査が主)した用語であり、会計発祥の分野ではないのです。(参照:NTT)
会計士が関与するフォレンジックの仕事内容

一言に「会計不正調査」と言っても、その内容は様々です。
分かりやすくイメージしていただくため、一般的な不正調査となる「粉飾決算」を例に挙げて流れを解説します。
① 粉飾決算
会計士が関与するフォレンジックでは、粉飾決算への対応が最も一般的です。
ご存じのとおり、会計監査の一環としての不正対応では、不正リスク対応基準において求められる手続として、たとえば類似取引・類似事業所での不正をチェックしたりします。
第三者委員会には、フォレンジックチームの他、弁護士法人やその他有識者などが参加することもあり、外部チームと連携・分担して調査を進めることになります。
なお、粉飾決算から生じたフォレンジックは、通常規模の大きい会社(上場会社)がメインになります。
そのため、粉飾決算から生じたフォレンジックでは、有報の過年度遡及修正やJ-SOXの再構築といった作業も必要になります。
② 過年度遡及修正
粉飾決算が検知されると、会計上は「いつから粉飾が行われていたのか」が必ず問題となります。
もちろん会社は独自に過年度影響額を算出しますが、係争事件などに発展している場合もあり、第三者委員会としても過年度の影響額を調査することになります。
③ 内部統制の構築支援
粉飾決算には、J-SOX対応がほぼセットで付いてきます。
すなわち、再発防止のための内部統制の構築が必要になるのです。
内部統制の構築支援は、私たち会計士の得意分野の1つでもありますから、未経験の方でも違和感なく取り組むことができます。
④ 調査報告書の作成
不正の原因・影響・再発防止策などを、最終的に調査報告書としてまとめ上げます。
この調査報告書は外部にも公表されるケースが多く、特に閲覧者(主に会社のステークホルダー)からは批判的な目で検討されます。
⑤ その他、補足
第三者委員会の設置から調査報告書の作成までが、会計士として関与するフォレンジックの流れになります。
会計監査に似たサービスではありますが、会計監査とは異なる部分も多々あります。
監査法人での不正対応では、あくまで会社に依頼して不正を追及してもらうというスタンスですが、フォレンジックでは第三者委員会として自ら不正を追及します。
ある意味、会計監査の限界を突破することができますから、この点で面白味を感じる方もいました。
フォレンジックでは、ITとの連携が必要不可欠

フォレンジック部門は、BIG4のFASであれば50名~100名程度で構成されます。
構成員は会計士のほか、特にSEやAIの専門家などが数多く在籍します。
先述のとおり、フォレンジックでは深度ある調査を行うため、こうしたIT専門家との連携は必要不可欠になります。
フォレンジックでは、IT作業を専門家に分担させるのではなく、同じチームの構成員としてタッグを組み作業にあたります。
そのため、たとえ会計士であってもITへの理解は必要であり、システムに対して苦手意識のある方にはあまりオススメできません。
会計士がフォレンジックで発揮できる強みは?

監査法人での監査経験は、(特に不正会計対応チームで)非常に高く評価されます。
そのため不正会計対応チームは、多くの会計士で構成されています。
具体的に、会計士がフォレンジックで評価されるのは、次の3つの強みが発揮できるからです。
会計士がフォレンジックで発揮できる強み
- 決算スケジュールに関する知見
- 内部統制の構築に関する知見
- 遡及修正に関する知見
① 決算スケジュールに関する知見
通常、粉飾決算への対応(及び遡及修正)は、年度内の完結を目指してスケジューリングされます。
この点、私たち会計士は決算スケジュールに関して知見を有しているため、「どの時期にどの程度の作業が生じるか」を予め想定することができます。
そのため、会計士はチームの舵取りとして貢献することができます。
② 内部統制の構築に関する知見
内部統制の構築支援についても、会計士の知見を活かすことができます。
監査法人出身の会計士のように「内部統制」に知見のある専門家は、意外と少ないです。
この点で、私たち会計士の強みを大きく発揮することができます。
③ M&Aに関する知見
意外と多いのが、M&Aに関連して生じるフォレンジック(係争支援)プロジェクトです。
たとえば、株式交換において反対株主による「株式買取請求権」がありますが、その買取価格が株主と会社間で折り合わない場合、株主・会社は裁判所に対して価格決定の申し立てができます。(会社法786条2項等)
このようなケースで、裁判所や当事者から「株価算定」のプロジェクトがフォレンジックチームに依頼されます。
実際にやることはバリュエーションですが、フォレンジックはこのような係争支援もサービスラインとするため、M&Aに関する知見が求められるケースがあります。
そのため、特にM&Aに知見のある会計士はこの点で強みを発揮することができます。
フォレンジックに対するクライアントのニーズはある?

もちろん、クライアント自身も不正調査を受けたくて受けるわけではありません。
しかし、先述のとおり不正会計が発生した場合には、証券取引所からの要請や社会的責任を果たすために、不正調査を依頼しなければなりません。

上記画像のとおり、事実として「不適切会計」の開示件数は2021年現在までにおいて右肩上がりで伸びています。(参照:東京商工リサーチ)
社会的には宜しくない出来事ですが、それだけ、フォレンジックに対するニーズも増えていることが分かります。
また、フォレンジック部門は組織内での「営業窓口」としても機能しています。
フォレンジックでの契約を通じて、その後同ファームでの監査契約やアドバイザリー契約に繫がるケースが多いことから、フォレンジック部門に対するファームからのニーズは強いです。
会計士がフォレンジックを経験できる転職先は?

会計士の提供するフォレンジックは「FAS」というフィールドに分類されます。
FASのうち、フォレンジックを経験できるのは次の転職先です。
- 大手監査法人のFAS(フォレンジック部門)
- 国内系FASコンサル会社(フォンレンジック部門)
FASを提供するコンサル会社は多いですが、フォレンジック部門に限定するとかなり数が限られます。
ちなみに余談ですが、今BIG4の監査部門で働いている方も、同ファーム内で異動するより他ファームに転職した方が、年収は上がる傾向にあります。
会計士がフォレンジックに転職する際の注意点

会計士がフォレンジックを転職先に選ぶ場合、1つだけ注意が必要です。
それは、その後のキャリア選択の幅が狭まるいう点です。
フォレンジックに転職した会計士の、その後のキャリアは次のとおりです。
フォレンジックを卒業した後の転職先
- 他のアドバイザリー会社のフォレンジック部門
- 上場会社の内部監査部門
- 監査役、社外監査役
その他のFASや経理などに転職すると、基本的にはその後のキャリア選択の幅が広がります。
なぜなら、他の領域(ファイナンス、税務など)の知見も得ることができ、かつ「転職先の母数」も多いからです。
「監査役」という貴重なキャリアを狙うことができますから、そのポジション狙いで経験を積まれるのはアリかもしれません。
しかし、基本的にはあまり転職をしない、または同業他社に転職するという方が多いです。
フォレンジックへの転職を考える会計士にオススメ転職エージェント
「フォレンジック」に強い!
会計士にオススメの転職エージェント Top 3
フォレンジックへの転職なら、マイナビ会計士1択です。
なぜなら フォレンジックは求人自体がとても少なく、最も営業力・知名度の高いエージェントが求人の多くを保有しているからです。
先述のとおり、FASには種類が数多くあり、会計士に求められる役割も様々です。
応募の前には必ず「求められる仕事内容」「与えられるポジション」を詳細に聞き、誤った理解で転職をしてしまわないよう注意して下さい。