公認会計士・税理士の藤沼です。
私たち会計士の転職先として、「経営企画」という選択肢があります。
そこで今回は、実際に経営企画に転職された会計士へのインタビューをもとに、働き方やその後のキャリアについて解説します。
目次
一般的な経営企画での仕事内容

一般に、経営企画には次の3種のコア業務が存在します。
3種のコア業務
- 経営戦略の策定・実行
- 経営管理
- 特命事項対応
もちろん、実際に求められる仕事内容は会社によって異なりますが、少なくとも上記の3領域に分けて業務を遂行します。
全体像をイメージするため、それぞれ簡単に解説します。
① 経営戦略の策定・実行
経営企画の基本は、PDCAサイクルです。(これは、どんな企業でも変わりません)
経営目標の策定・実行では、Plan + Do を進めます。
具体的には、次のとおりです。
- 現状分析
- 経営目標・事業計画の策定
- 具体的実行案の策定・実行
現状分析では、「自社の経営状況」「自社の属する市場」「競合他社の状況」「政治経済の動向」を把握し、まず経営層に情報を共有します。
つぎに現状分析を踏まえ、自社の目指すべき目標を「短期」「中期」「長期」の別に策定し、その達成に向けた事業計画を立案します。
そして、その事業計画達成に必要な具体的案を策定し、実行をリードします。
② 経営管理
ここでは、PDCAサイクルのうち Check + Action を進めます。
- 予実分析
- フォローアップ
まず策定した事業計画と実績を対比し、原因を分析します。
タイミングは四半期ごとの実施が多く、月次での分析は経理部から吸い上げる、というケースが一般的です。
そして、分析した結果を反映します。
具体策が誤っていれば具体策を修正し、事業計画が誤っていれば事業計画を修正します。
また、更に高層(市場環境の変化など)に影響があった場合には、早期に経営層に対して情報を共有します。
③ 特命事項対応
以上が経営企画部での定常的な業務です。
しかし 経営企画部では、非定常業務として例えば次の仕事が求められます。
- 業務提携やM&A:他社との提携やM&A等、機密性が高い事項をリード
- 新規事項への対応:明確な担当部署が存在しない新しい経営課題に対応
「M&A」と聞くとFASなどの会計領域をイメージされる方も多いと思いますが、M&Aのスタートは経営企画です。
すなわち 経営戦略としてM&A先を探したり、コンサルティング会社からの提案を受けるなど、初期のフェーズからM&Aをリードするのが経営企画部での仕事になります。
また、新たな経営課題が浮かび上がった際にも、まず経営企画部に話がくるケースが一般的です。
新規事項が「ビジネスでどのように活用できるか」という観点が最優先されるため、明確な部署が存在しないような(ある種、何でも屋さんのような)業務も受けることになります。
経営企画で発揮できる会計士の強みは?

以上が、一般的な経営企画での仕事内容です。
しかし、あえて「公認会計士」を経営企画に採用する企業では、特に次の役割を求める傾向があります。
① 事業計画の作成
事業計画の作成には、財務会計・管理会計・税務・ファイナンスのスキルが多く求められます。
特に、相互に連動する財務三表の作成は、私たち会計士の主戦場であると感じます。
事業計画の正確さが精密であればあるほど、その後の予実分析の精度も上がりますから、この点で会計士にはかなり期待を寄せられるでしょう。
② M&Aのリード
M&Aが頻繁に行われるような事業会社では、M&Aのリード要員としても会計士を採用するケースがあります。
M&Aの会計実務だけでなく、M&Aのスケジュール全体を見渡してリードできるか、という点で会計士に期待が寄せられます。
③ IRの作成
会社によって異なりますが、IRの作成を経営企画部の業務とするケースがあります。
IRは投資家のために作成する情報であり、投資家目線の情報が必要となることから、会計士の知見を活かすことができます。
経営企画部の繁忙期・閑散期

先述のとおり、経営企画部の基本は 短期間でのPDCAサイクルを回し続けることです。
① 繁忙期
年度決算月までの3ヶ月(3月決算であれば、1月~3月)は、特に忙しくなります。
なぜならこの期間は、1年間の予実分析・翌年度の事業計画策定が同時並行されるからです。
また、M&Aのような非定常業務が発生した場合、取締役会による意思決定までの1ヶ月間は準備のため業務量が増加します。
② 閑散期
お盆・年末年始は全社的に業務がスローダウンしますから、経営企画部での業務量も比較的落ち着く傾向です。
とは言え、経理部のようにほぼ残業ゼロという事はなく、閑散期であっても多少の残業は発生します。
会計士が経営企画に転職するメリット

私たち会計士が経営企画に転職するメリットは、大きく次の3点です。
- 業界での経営手法が理解できる
- キャリアの選択肢が大きく広がる
- 年収が上がり続ける
① 業界での経営手法が理解できる
経営企画は経営層との距離がとても近く、間接的に自社の意思決定に関与できます。
そのため 自社の経営を担う達成感が得られ、企業経営に必要な知見を蓄積できる点で大きなやりがいを感じます。
そのほか、マーケティング手法やブランド戦略など、同業界の経営を理解することができます。
このような知見は、例えば同業他社への転職の際に高く評価され、また起業する際等にも大きく役立つでしょう。
② キャリアの選択肢が大きく広がる
意外と思われるかもしれませんが、経営企画は会計士としてのキャリアを大きく広げます。
経理やFASに比べれば 転職先の求人数は少ないものの、希少価値が高く(相対的な)需要が大きいため、経営寄りの選択肢が増えます。
>>会計士が経営企画に転職した後のキャリア
③ 年収が上がり続ける
経営企画ではルーティン化された業務が少ないため、基本的に少数精鋭です。
そのため 他の管理系職種に比べて待遇が良く、転職時の年収も高めです。(平均で800万以上)
また、その後の転職先はさらに年収の高い業界が多いため、生涯を通じて年収を上げ続けることができます。
同じ管理系職種であっても、「経理部」とは大きく異なるポイントと言えます。
会計士が経営企画に転職するデメリット

一方で、会計士が経営企画に転職することによるデメリット(懸念事項)は、大きく3点挙げられます。
- 守備範囲が広い
- 人間関係でのストレス
- ロールモデルが少ない
① 守備範囲が広い
経営企画での業務は、「事業計画の策定」「予実分析」など、会計士としての知見を直接活かせる仕事だけではありません。
そのため、「専門家として1つのスキルを磨け上げたい」という志向の方には、向かないかもしれません。
企業経営では 時には泥臭い仕事も必要となるため、この点は予め理解しておく必要があります。
② 人間関係でのストレス
経営企画は、各部署と経営層とのハブ(橋渡し)のような存在でもあり、必要に応じて社外の関係者(投資家)との交渉も発生します。
そのため、相対する関係者が非常に多くなり、人間関係でのストレスが増えることになります。
逆に、コミュニケーションを得意とする方にとっては、強みを活かすことのできるポジションとも言えるでしょう。
③ ロールモデルが少ない
希少価値とのトレードオフですが、経営企画を選ぶ会計士自体が少ないため、ロールモデルとなる会計士が身近にいません。
この点は、転職エージェントが多くの成功事例を蓄積しているため、過去事例を紹介してもらうと良いでしょう。
無料なので、使わない手はありません。
会計士が経営企画に転職した後のキャリア

会計士が経営企画に転職した後のキャリアについて、①組織内でのキャリア、②卒業後のキャリアをそれぞれ見てみましょう。
① 組織内でのキャリア
組織内でのキャリアアップとしては、自社のCOO・CFOポジションへの昇格があります。
② 卒業後のキャリア
会計士の転職先としてはメジャーではない「経営企画」ですが、転職市場での期待値は高く、会計士のキャリアの幅を広げることがでいます。
会計士が経営企画を卒業した後の転職先
- 戦略コンサル
- ベンチャーCFO
- 上場経理(部長ポジション)
- PEファンド
- 同業他社の経営企画部
経営企画というキャリアを経験することで、「経営」寄りの選択肢が大きく広がります。
私たち会計士は、一般に「会計+FAS」「会計+税務」といったキャリアを選ぶ方が多いですが、ありふれたキャリアになりがちです。
特に、PEファンド・戦略コンサルは転職難易度が高いのですが、経営企画部でのキャリアがあると 難易度がグッと下がります。
会計士が経営企画に転職する際、1つだけ注意する事
経営企画に応募する際には、しっかりと「業務内容」を把握することが大切です。
なぜなら、求められる役割が企業によって多種多様だからです。
企業が求めるポジションを理解せずに転職してしまうと、想定していたキャリアを踏むことができないため、必ず注意して下さい。
経営企画に強い、会計士専門の転職エージェント
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