公認会計士・税理士の藤沼です。
会計士の方なら体感でご存知と思いますが、監査法人の離職率はかなり高いです。
かくいう私も、4年ほどでEYからFASに転職しました。
しかし、現職の方々にとっては「なぜ転職するの?」と素朴な疑問を感じるかもしれません。
「自分も転職しようかな」とお考え中の方の、ご参考になれば幸いです。
目次
公認会計士の転職理由【アンケート調査結果】

会計士の転職理由については、公認会計士協会(組織内会計士ネットワーク)のアンケート調査結果が公表されています。
当アンケート調査では、「ポジティブな理由」及び「ネガティブな理由」の2つに分けて回答を得ているため、それぞれ回答を見てみましょう。
① ポジティブな転職理由【アンケート結果】
選択肢 | 回答(件) | % |
---|---|---|
他組織・業種への興味 | 100 | 32.4% |
今後のキャリアアップ | 91 | 29.5% |
勤務時間の安定 | 57 | 18.4% |
収入の増加 | 40 | 12.9% |
その他 | 21 | 6.8% |
合計 | 309 | 100% |
(引用:組織内会計士ネットワーク B6-1-1)
「他業種への興味」と「今後のキャリアアップ」がそれぞれ全体の約3割を占めており、次いで「勤務時間の安定」を求める方が全体の約2割となっています。
「監査だけでは面白味がない」「監査以外の経験がしたい」という方が大多数のようです。
また、会計士は基本どの業種でも年収が高いことから、「収入の増加」を目的としている方は約1割と少数です。
② ネガティブな転職理由【アンケート結果】
選択肢 | 回答(件) | % |
---|---|---|
形式的な作業が優先される為 | 90 | 20.0% |
監査業界の将来への不安 | 80 | 17.8% |
指導的機能の発揮が制限される為 | 67 | 14.9% |
評価・昇給への不満 | 52 | 11.6% |
昇格ポジションの不足 | 46 | 10.2% |
所属事務所の持続可能性 | 35 | 7.8% |
基準等の変化の速さ | 23 | 5.1% |
人間関係の希薄さ | 14 | 3.1% |
その他 | 42 | 9.4% |
合計 | 449 | 100% |
(引用:組織内会計士ネットワーク B6-1-2)
確かに、私がEYにいた頃も「大量のバウチング」「膨大な量のテンプレート文書化」に追われ、単調で面白味を感じなくなっていました。
そんな中で「監査しか出来ない」というキャリアへの不安から、FAS(コンサル)への転職を決めました。
③ アンケート結果に残る「違和感」
以上が、公認会計士協会による「転職理由」のアンケート結果です。
しかし、これを見て私は大きな「違和感」を感じます。
私の周りの転職した会計士に聞いても、「仕事がキツかった」と答える方は多く、このアンケート結果には違和感が残るのです。(あくまで個人の感想です)
私なりに推察するところ、「公式的なアンケートに、本音(ある種の自分の負い目)を書けなかったのではないか?」と考えます。
公認会計士の転職理由【口コミ】

今回利用するのは、「OpenWrok」という口コミサイトです。
実際に読んでみるとかなり生々しい記述が多く、転職理由の他にも、「働きがい・ワークライフバランス・年収」などが書かれています。
実感値と比べてもあまり違和感がなく、このサイトでの口コミが「本音」に近いと感じました。
なお、本記事では以下の4法人(アシュアランス部門)からの転職者に絞り、「転職理由」を掲載します。
- EY新日本有限責任監査法人
- 有限責任あずさ監査法人
- 有限責任監査法人トーマツ
- PwCあらた有限責任監査法人
もちろん監査法人以外から転職される方もおられるのですが、全企業から抽出するのは困難のため、上記に限定しました。
では、ポジティブな転職理由から見てみましょう。
公認会計士のポジティブな転職理由【口コミ】

表現に細かな違いはあるものの、ポジティブな転職理由は 概ね次の4パターン に当てはまりました。
ポジティブな転職理由(口コミ)
- 監査以外の経験を積みたい
- クライアントの役に立ちたい
- 作る側を経験したい
- 独立へのステップとして
それぞれ、かんたんに理由を掘り下げたいと思います。
① 監査以外の経験を積みたい
ご存じのとおり、監査法人では会計・監査のみに従事します。
そのため、「飽きた」という回答が非常に多いです。
また、「せっかく会計士資格を取得したのだから、もっと広い世界を見たい」といったキャリアアップの視点での回答も 多く見られました。
② クライアントの役に立ちたい
「やりがいが欲しい」「クライアントに喜ばれたい」という気持ちから、FAS等のコンサルに転職したという方が多くいました。
ご存じのとおり、監査をして感謝されるようなシチュエーションは少ないでしょう。
私もコンサルに転身しましたが、税務上有利なスキームを提案できたり、クライアントの求める財務モデルを提供できた時は、非常に感謝され「やりがい」を強く感じました。
もちろん その分頼りにされますから、自己研鑽も進んで行っていました。
③ 作る側を経験したい
監査法人でクライアントの監査をするにつれ、「決算書を作成する側を経験したくなった」という回答も多くありました。
確かに、私たちは外部から(そして重要性の高い部分だけ)書類を閲覧しますから、実際どのようなフローで行われているのか分かっていない部分があります。
また、「コンサルと監査の違いがあまり分からない」という意見もあり、経理を選ばれる方が多くいました。
④ 独立へのステップとして
他の転職理由に比べると少ないですが、「独立のため」として計画的に転職をされている方もいました。(そして多くの場合 3~5年で退職し、独立しています)
私自身も、独立のために転職をしました。
転職先での経験は 今の仕事に大きく役立っており、自らの収入に直結しています。
公認会計士のネガティブな転職理由【口コミ】

ネガティブな転職理由には、概ね次の4パターン がありました。
ネガティブな転職理由(口コミ)
- 激務・プレッシャーが強い
- 人間関係に疲れた
- 昇格できる可能性が低い
- 監査自体がつまらない
こちらも、それぞれ簡単に内容を見てみます。
① 激務・プレッシャーが強い
以前に比べれば残業規制がかかっているとは言え、繁忙期はかなりのハードワーク。
監査では 上司やクライアントからのプレッシャーが強く、疲弊してしまう方が多いようです。
私が監査法人を辞めた理由の1つも、コレでした。
転職活動をしていなくとも、潜在的に「辞めたい」と感じている方が多いのでしょう。
私たち会計士の仕事は、監査だけではありません。
大手監査法人を除けば、自分のペースでできる仕事は山ほどあります。
② 人間関係に疲れた
チーム単位で動くため、苦手な上司と同じチームになると、人間関係で気疲れしてしまう方が多いようです。
また ① の「プレッシャーが強い」にも関連しますが、ややピリピリした雰囲気が合わないと感じ、転職される方もおられるようです。
③ 昇格できる可能性が低い
周知のとおり、大手監査法人では昇格要件が非常に厳しいです。
シニア3~4年目頃になると マネージャー昇格を意識しますが、実は転職のタイミングとしても最も良いのがこの時期です。
転職市場での需要の多さを知り、「内部で昇格を目指すよりも、評価してくれる会社に転職する」といった視点に切り替わる方が多いようです。
④ 監査自体がつまらない
「監査がつまらない」というのは、本当によく耳にします。
とはいえ、これはBIG4に限った話だと感じます。
例えば私は(非常勤職員として)中小監査法人で働いていますが、BIG4ほどの「形式さ」は感じません。
膨大な「文書化」「バウチング」は求められませんし、考えながら作業ができます。
【注意】転職には適したタイミング・時期がある

転職理由にかかる「アンケート結果・口コミ」は以上ですが、1つ注意点です。
あまり記述は無いものの、「時期を逃さないために転職した」という方も多いと考えられるのです。
私たち会計士の需要はとても多く、30代までであれば、かなり選択肢は多いです。
しかし、40代になると求人数は激減し、転職者も全体の1割まで減少します。
キャリア構築の第一歩は、「選択肢」を知ること。
私たち会計士のキャリアは、非常に幅が広く、「何から考えれば良いのか分からない」という状況になりがちです。
そこでオススメなのが、まず「選択肢」を知ることです。
私たち会計士の転職先は、大きく12種に分けることができます。
とはいえ それでも調べるには多くの時間を要します。
仕事をしながらキャリアを考えるのは、結構手間がかかります。
しかしキャリア設計は人生に関わる大切な作業ですから、ぜひ効率的な方法で進めてみてくださいね。