公認会計士・税理士の藤沼です。
EY新日本に4年半勤務した後、国内の中堅FASファームに転職しました。
そこで今回は、FASへの転職を考えている会計士の方向けに、FASの全てを解説します。
※ 転職が初めて方向けに書いていますので、できるだけ平易かつ分かりやすく解説します。
目次
そもそも、FASとは?

初めて転職活動をされる方は、「そもそもFASって何?」という方も多いと思います。
私もそうでした。
これを知っておかないと、情報収集の際に混乱してしまいます。
FASは2つの意味で用いられる
- 「サービス」としてのFAS
- 「職種」としてのFAS
以下、簡単に解説します。
① サービスとしてのFAS

FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)は文字通り、ファイナンス面で顧客にアドバイスをするサービスの事です。
”ファイナンス” は直訳で「金融」を意味しますが、具体的には次のサービスがFASに含まれます。
サービスとしてのFASの種類
- 財務DD
- バリュエーション
- PMI
- BIG4特有の会計アドバイザリー(PPA・減損テスト等)
- フォレンジック(不正調査)
- 事業再生・企業再生
- その他(IFRS、IT、内部統制、パブリック、新興国など)
※ やや聞きなれない名称もあるかもですが、後ほど分かりやすく解説します。
細かいものを挙げるとキリがありませんが、基本、「FAS」と言えば上記のいずれかに分類されます。
「FAS」と言えば「財務DD」と「バリュエーション」を思い浮かべる方も 多いでしょう。
私自身も、転職先では この2つのサービスに従事していました。
② 職種としてのFAS
使い方としては「FASに転職した」「FASで働いている」といった感じです。
こちらも明確な定義はありませんが、職種としてFASを指す場合は、一般的に次の職種が含まれます。
職種としてのFAS
- 国内系FASコンサル会社(本記事のメイン)
- BIG4のアドバイザリー部門
- 会計事務所のFASチーム
このうち 本記事では、国内系FASコンサル会社をメインで取り上げます。
BIG4のアドバイザリー部門については「監査法人のアドバイザリーに転職した、会計士のキャリアを解説」の記事で解説し、会計事務所については「会計事務所に転職した会計士のリアルを全公開」の記事で解説しています。
会計士によるFASでの仕事内容

ここでは、サービスとしてのFASについて解説します。
おさらいですが、FASのサービスは大きく次のように分けられます。
サービスとしてのFASの種類
- 財務DD
- バリュエーション
- PMI
- BIG4特有の会計アドバイザリー(PPA・減損テスト等)
- フォレンジック(不正調査)
- 事業再生・企業再生
- その他(IFRS、IT、内部統制、パブリック、新興国など)
※ 「その他」はかなり細かいので割愛します。
① 財務DD

監査法人出身者なら 一度は耳にした事があると思いますが、念のため簡単に解説します。
M&Aでは、被買収企業の価値を知るため、自社またはコンサルに委託して対象会社の調査(リスクの洗い出し)を行います。
とはいえ監査とは目的が異なることから、財務DD特有の論点などもあります。
FASに参入した会計士はまず財務DDから担当するケースが多く、監査経験をフルに活かすことができるため、監査法人出身者は即戦力になります。
財務DDの経験はとても汎用性が高く、FASでのベースを作るキャリアになります。
② バリュエーション

実際にM&Aを行う前に、買い手側企業は買収対象となる企業の「買収価値(株価)」を算定します。
買い手側企業(バイサイドと言います)は 算定した価格よりも購入価格が安ければ、買収することを決定します。
また、売り手側企業(セルサイドと言います)がバリュエーションを行うこともあり、これにより投資家たちに「売値」を示すことができますから、より買い手が見つかりやすくなるというメリットもあります。
なお、買収価値の算定方法には「類似会社比較法」「DCF法」「純資産法」などがあります。
面白いくらいに「公認会計士試験」での勉強内容(経営学)がそのまま業務に活かせますので、こちらも会計士としての知見を活かせる分野です。
バリュエーションの経験も 財務DDと同じように、FASでのキャリアを築くベースとなります。
③ PMI

PMIとは、「M&A後の統合作業」をいいます。
M&Aでは異なる2つの組織を1つに合体させますから、様々なコンフリクトや軋轢(あつれき)等が発生します。
それらの統合作業を総称して、PMIと呼びます。
PMIは財務DD・バリュエーションとは異なり、会計・ファイナンス以外のスキルも求められます。
そのため 全くの未経験から参入するには、少しハードルが上がる点にご注意ください。
また余談ですが、財務DD・バリュエーションはM&Aの前に行われるのに対し、PMIはM&A後に行われるという時系列の関係があります。
そのため、財務DDとバリュエーションはセットで契約がなされ、PMIは必要があれば契約される という傾向にあります。
④ PPA・減損テスト

主にBIG4のアドバイザリー部門でのサービスとして、「PPA」や「減損テスト」があります。
こちらも、M&Aに関連するFAS業務の1つです。
PPA(パーチェス・プライス・アロケーション)とは、買収時における取得原価の配分を言います。
M&Aでは、B/Sに計上されている資産・負債を引き継ぎますが、目に見えない無形の資産も引き継ぐ必要があり、この無形資産を識別するための一連の手続きをPPAと呼びます。
減損テストは説明不要だと思いますが、主にのれんの減損兆候~測定までをテストする作業をいいます。
取得原価の配分や減損テストは、M&Aに関連して必ず発生する論点であることから、(特にBIG4では)財務DDやバリュエーションから継続的に契約されるケースが多いです。
また、監査チームからの依頼により契約がスタートするケースも多くあります。
⑤ フォレンジック

フォレンジックとは、端的に言えば「不正調査」を指します。
ただし 会計士がフォレンジックに従事する場合は、主に「会計不正」に対応することになります。
具体的には、大規模な会計不正が発覚した場合、企業は外部の第三者委員会を設置することになりますが、フォレンジックではこの第三者機関として調査を行うことになります。
⑥ 事業再生・企業再生

事業再生・企業再生は、組織の業績・財政状態を健全化するコンサルティングサービスです。
具体的には、会社の各サービスラインの整理、支払サイトの整理などにより事業計画書を作成し、金融機関に提案をする事で追加融資を受ける、といった流れです。
そこから企業が立ち直れるかどうかは、企業の自助努力によるところが大きく、実は「会計士が立て直す」というケースはかなり少ないのが実情です。
【更新中】
FASでの仕事のやりがいは? 楽しい?

結論としては、監査の100倍は楽しかったです。
楽しさを感じたポイントは、大きく3つありました。
- 毎日のように成長を感じた
- クライアントに頼られるため、仕事へのやる気が常に高かった
- 監査経験のみでも、即戦力になれた
① 毎日のように成長を感じた
私はEYで4年半ほど監査をしていましたが、面白味のない仕事が多く、早く辞めたいと思っていました。
FASに転職してからは、携わる仕事すべてが新鮮で、まるでスポンジのように全て吸収できたのを今でも覚えています。
特に BIG4での監査とは違い、FASには本質的な仕事しかありません。
仕事に意味を見出すことができるため、いつも前のめりで仕事に励むことができました。
ちなみに 当時培ったFASの知見は、独立した今でも大きく役立っています。
② クライアントに頼られるため、仕事へのやる気が常に高かった
監査法人時代は、仕事に面白味を感じない以上に、「精神的なストレス」を強く感じていました。
一方 FASはコンサルですから、基本的にクライアントから頼られます。
頼られると自然とやる気が湧き上がってくるので、多少の残業なら頑張れるのです。
もちろん、仕事内容も監査ではありませんから、当たりの強いクライアントはいませんでした。
③ 監査経験のみでも、即戦力になれた
転職時の私の経歴は、「EY新日本での4年半の監査経験」のみでした。
「監査のスキルだけでは、将来に不安がある…」と感じていましたが、思わぬ形で監査経験を活かすことができたのは、良い誤算でした。
また、社内に会計士の職員がいたのも、大きなポイントでした。
FAS業界は監査法人出身の会計士が多いので、特に転職が初めての方にとっては、馴染みやすい組織が多いと思います。
会計士がFASに転職すると、年収はいくらになる?

ここでは、職種としてのFASの「年収」について見てみます。
そこで、転職サイトから全てのFAS求人を抽出しましたので、結果を掲載します。

以上のデータを集計した結果が、次のとおりです。
FASに転職した時の平均年収
- 国内系FASコンサル会社 : 771万円
- FASに関与できる会計事務所 : 755万円
(参考に、FASに関与できる会計事務所の年収も併記しました)
上記は求人票ベースの年収ですので、実際は残業代によりもっと増えます。
私の友人の会計士も、初めはベースの低い会計事務所に転職しましたが、3年後には年収1,000万を超えていました。
【給与明細】EYを4年半で辞めた私の、FAS1年目の月収
ご参考までに、私自身のFASでの給与明細も載せておきます。

手取り 61万円/月 でした。
年収に直すと 910万円くらいです。
職歴はEYでの監査経験(4年半)だけでしたので、5年ちょっと働いてこの水準です。
一般的にはかなり高いと思いますが、会計士なら転職すればこのくらいは普通です。
やりがいを得られて、かつ年収も大きく上がるので、(監査に執着がないのであれば)早いうちに転職した方が良いと思います。
会計士がFASに転職したときの残業時間

FASでの残業時間は、全体的に多いです。
先述のとおり、FAS(特にM&Aに関連するサービス)は、1つ1つのプロジェクトが短期間で終了し、それを短いスパンで繰り返します。
1つのプロジェクトのみに関与しているのであれば、そこまで残業は増えないと思います。
しかし、複数のプロジェクトが重なってしまった場合、残業時間が急激に増えます。
こうしたFASの性質から、残業時間は多くなる傾向にあります。
ちなみに私の場合は、平常時30時間/月、繁忙時80時間/月でした。
FASでの経験を活かした会計士の転職先

転職する際は、その後のキャリアも見据える必要があります。
FASからの転職先としては、次の転職先が代表的です。
FASからの転職先
- 国内系のFASコンサル
- 監査法人のアドバイザリー部門
- ベンチャーCFO
- 事業会社の経理部(M&Aチーム)
- 事業会社の経営企画部
- 投資銀行
- PEファンド
- 会計事務所
選択肢となるキャリアが非常に幅広いのが、FASの特徴です。
特にM&A(DD・バリュエーション)に関する知見は、とても汎用性が高く、「なんとなくコンサルをやってみたい」という会計士にはかなりオススメです。
会計士の全ての転職先の中で、最も将来性が高いのがFASであると感じます。
やや残業が多い傾向にあるのがデメリットですが、20代~30代でスキルを高めておきたい方には、かなりオススメです。
会計士がFASに転職する際の注意点

FASへの転職では、注意すべき点が2つあります。
(特に初めて転職される方は、要注意です。)
① 仕事内容を詳細に確認する
先述のとおり、「FAS」と言っても種類はたくさんあります。
私は「FASなら、どこでも財務DD・バリュエーションに関与できるだろう」という気持ちで転職をしたのですが、実際はそれ以外の(想定外の)業務も任されました。
結果として良い経験はできたのですが、一歩間違えると、自分の望まない仕事を任されてしまうケースもあります。
特に面接などでは、「自分が入社したら、具体的にどのような仕事を任せるつもりか?」を詳細に聞くべきです。
FASには様々なサービスがありますので、本当に気を付けて下さい。
② 求人票だけを見て応募しない
求人票には、たとえば「残業時間」「業務内容」が記載されていますが、それらは目安に過ぎません。
実際にフタを空けてみると、情報が古かったり、会社側に都合の良い情報しか載せていなかったりします。
FASでは働き方がプロジェクト単位(チーム編成)ですので、複数のプロジェクトが重なると、想定以上に忙しくなるケースがあります。
応募する前に、必ず転職エージェント等に詳細を聞いてください。
転職してしまってからでは、遅いですからね。
FASへの転職難易度は?
監査経験のある会計士であれば、ほぼ100%の割合で内定が出ます。
私も監査経験4年半で転職をしましたが、
- FAS8社に応募 → 全部書類通過
- うち4社で面接 → 全部内定
という結果でした。(8社中、残りの4社は書類通過時点で辞退しました)
経理や会計事務所などもそうですが、30代までであれば、ほとんどの会社から内定が出ます。
FAS志望の会計士にオススメの転職エージェント
最後に、会計士におすすめの転職エージェントを紹介します。
- マイナビ会計士(おすすめ)
- レックスアドバイザーズ
- ジャスネットキャリア
FASへの転職なら、マイナビ会計士1択です。
なぜなら、唯一の会計士専門エージェントであり、求人数もNo.1だからです。
ちなみに、私自身もマイナビ会計士で転職しました。
FASには本当に様々なサービスがありますから、詳細は転職エージェントに聞いてしまうのが一番早いです。