公認会計士・税理士の藤沼です。
私たち会計士の転職先として、最もポピュラーなのが「経理」です。
そこで今回は、経理に転職した会計士へのインタビューを踏まえ、主に「年収」「働き方」「キャリア」をお話します。
今回は、私のEY時代の同期H.Fさんにインタビューを行いました。
目次
会計士が経理に転職すると年収はいくらになる?

会計士が経理に転職した時の平均年収は、「773万円」です。
会計士の転職先は全12種ありますが、その中でも平均的な年収となります。
なお、この数値は公開されている「公認会計士向け求人」のうち経理職130件を抽出し集計したデータです。(引用:ジャスネットキャリア求人公開データ)
① 転職時の年収【スキル/ポジション別】
一言に「経理」と言っても、求められるスキル・ポジションによって年収は変わります。
上記の年収データを更に細かく、スキル別年収を見てみましょう。
求められるスキル・経験別の年収
求められるスキル・経験 | 平均年収 |
---|---|
M&A(12件) | 873万円 |
ベンチャー経理(6件) | 867万円 |
英語力(15件) | 860万円 |
IPO(16件) | 841万円 |
IFRS(9件) | 824万円 |
その他、一般的な経理(72件) | 709万円 |
合計(130) | 773万円 |
M&A(FAS)、IFRS、英語力などの経験があると、年収は大きく跳ね上がります。
また、IPOベンチャーの経理といったポジションにおいても、高い報酬を提示される傾向にありました。
② 昇給率
次に、転職後の昇給率を見てみましょう。
「会計士が経理に転職した後の昇給率」というピンポイントな母集団は公表されていないため、ここでは厚労省の発表している「賃金構造基本統計調査」の結果を用います。(引用:厚生労働省 賃金構造基本統計調査の概況)
大企業職員の年齢別年収推移

上場経理の年収を確認するため、上記のとおり「大企業」のデータを採用します。
また、会計士は男女の年収にほとんど差が生じないため、公表されている男性のデータをそのまま用います。

厚労省のデータによれば、大企業に勤める正規職員の昇給率は、「3.04%/年」となりました。(公表データは5年毎のため、1年毎にならしています)
もちろん これはあくまで平均値であり、実際は企業により変動します。
昇給率は求人票に明記されませんので、転職エージェントに確認する、または直接企業に確認する必要があります。
③ 退職金
事業会社では、監査法人や会計事務所、コンサル会社に比べて 退職金が多い 傾向にあります。
こちらも厚労省の公表するデータを参照します。
「経理」といったピンポイントなデータはありませんが、「大卒者・管理部門」の平均退職金データが公表されています。
大卒・大学院卒者の管理部門での退職金

- 勤続20年~:1,743万円
- 勤続25年~:1,854万円
- 勤続30年~:2,081万円
- 勤続35年~:2,493万円
勤続20年以上のデータのみ公表されていますが、上記のとおりです。
こちらは会社規模が考慮されていないため、上場会社の場合はもう少し増えると思われます。
④ 福利厚生
福利厚生の充実度も、事業会社ならではのメリットです。
企業によって福利厚生は様々ですが、たとえば今回インタビュイーのH.Fさんの会社では、「住宅手当・財形や持株会の一部補助」が付くそうです。
経理部での会計士の仕事内容

もちろん、企業によって会計士に求められる役割は様々ですが、ここでは一般的な経理での仕事内容を見てみましょう。
① 業務内容
経理での業務内容は、基本ルーティンワークが多くなります。
経理での業務内容の一例
- 日々の業務:メールチェック、伝票チェック、起票
- 適宜実施:業務改善(作業の効率化)、月次勘定科目内訳書の作成、個別案件の検討(減損検討や新規開示項目などの検討など)
監査経験者ならご存知のとおり、経理部では、担当者ごとに勘定科目が割り当てられます。
担当科目に関する伝票起票などのルーティンワークに加え、検討事項が増えると、スポットでの仕事が発生します。
② 年間の業務スケジュール
こちらも監査経験者ならご存知と思いますが、簡単に年間スケジュールを見てみましょう。
経理での年間スケジュールの一例
- 毎月(月初):月次決算
- 毎四半期:四半期決算、短信・四半期報告書の作成、その他IR資料の作成
- 毎年:決算業務、計算書類・招集通知の作成、短信・有価証券報告書の作成、その他IR資料の作成
企業結合や連結決算など、特に専門的な知識の要求されるようなシチュエーションも、会計士の担当領域になります。
H.Fさんの会社ではIR関連も経理部マターのようですが、会社によっては経営企画との分業となるケースもあります。
③ 経理で得られるスキル・経験
経理では、監査法人での経験を活かしつつ、次のようなスキル・知識を得ることができます。
経理で得られるスキルの一例
- 税に関する知識(消費税、印紙税、源泉税など)
- 企業・業種特有の会計処理・取引慣行
- 予算の管理・編成
関与するフィールドは会計監査と似ていますが、より細かな知識(税務等)や、予算管理・予算編成といった経験ができます。
また、様々な部署との連携が必要になるため、ある程度のコミュニケーション力も求められます。
経理部での残業時間はどのくらい?

会計士の転職先のなかでも、「経理」は最も残業時間の少ないポジションの1つです。
とは言え、実際には企業によって大きく異なります。
通常、「ヒアリングした残業時間」と「実際の残業時間」にはブレが生じます。
しかし経理の場合、毎期決まったルーティンに従うことから、ヒアリングした残業時間と実態がブレにくいという特徴があります。
インタビュイーのH.Fさんの会社では、閑散期は月に5時間程度、繁忙期は月に30時間程度の残業と聞いて転職し、実際もほぼ同等の残業時間だったそうです。
特に監査法人で疲れた方が、多く経理に転職されるそうです。
>>マイナビ会計士なら、無料で求人票を入手できます。
会計士が経理に転職した後のキャリアプラン

経理に転職した後のキャリアとしては、次の3パターンが一般的です。
経理転職後のキャリア
- 定年まで勤め上げる
- 経理
- ベンチャーCFO
業績の安定している上場企業であれば、そのまま定年まで勤めあげる方が多いです。
ただし、年収面で更にキャリアアップを図り、同業種の経理やベンチャ-CFO等のポジションへ転職するケースも多いようです。
逆に、経理からFAS等のファイナンスや税務に進む方は少ないです。(専門性がブレるため)
会計士が経理に転職するデメリット

先に、デメリットからご紹介します。
会計士が経理に転職するデメリットは、大きく3点です。
会計士が経理に転職するデメリット
- ルーティンワークが増える
- 転職時は年収が下がる可能性あり
- 会計・税務に関する情報を自らキャッチアップする必要性
① ルーティンワークが増える
経理に転職すると、(管理職でない限り)会計士であっても伝票入力やチェックが日々の業務になります。
定型的な仕訳を入力する機会が多く、それ自体に「やりがい」を見出すことは難しいかもしれません。
そのため、人によっては「退屈さ」を感じる可能性があります。
この点にリスクを感じる方は、必ず、転職前にルーティンワークのボリュームを確認しておくべきです。
② 転職時は年収が下がる可能性あり
先述のとおり、(条件によっては)経理への転職時に年収が下がる可能性があります。
もちろん、経理は「有資格者でなくともできる仕事だから」という理由もあります。

転職する際は 提示された報酬をそのまま飲むのではなく、年収交渉をすることとで、このようなリスクを回避することができます。
なお転職エージェントを利用することで、年収交渉の代行を依頼することもできます。
③ 会計・税務に関する情報を自らキャッチアップする必要性
監査法人にいると、待っていても最新の会計情報が得られます。
そのため、常に会計基準や法改正へのアンテナを張っておく必要があり、やや手間を感じるかもしれません。
ちなみに私が転職したときは、TKCエクスプレスなどのメール配信サービスを利用しました。(会社としてこのようなサービスを契約しているケースもあります)
会計士が経理に転職するメリット

経理には、大きなメリットが3点あります。
会計士が経理に転職するメリット
- ワークライフバランスが長期的に改善する
- 頼りにされる機会が多く、重宝される
- 福利厚生が充実する
① ワークライフバランスが長期的に改善
先述のとおり、経理は他の転職先に比べて 残業時間が少ないという特徴があります。
ベンチャー企業(メガベンチャー含む)の場合は別ですが、上場企業のようにビジネスモデルを大きく変えない組織の場合には、突発事項も少ないため「急に忙しくなる」という機会も少ないでしょう。
そのため、公私ともに安定しやすく、ワークライフバランスが長期的に改善される傾向にあります。
② 頼りにされる機会が多く、重宝される
経理部には、基本的に会計士などの専門家があまり居ません。(会計士は自分一人だけ、というケースもあるでしょう)
そのため経理に転職すると、企業内の「専門家」として頼られる機会が増えます。
専門家としての裁量の幅が広く、このような点で「やりがい」を感じるできるでしょう。
この点は監査法人やFAS等とは大きく異なるメリットです。
監査法人での経験をフルに活かすことができ、組織からも重宝されるでしょう。
③ 福利厚生が充実する
上場経理の大きなメリットの1つが、福利厚生です。
住宅手当や自己啓発に係る補助費、公認会計士協会の年会費も負担してくれるケースがあります。
逆に言えば、「福利厚生が充実している分、年収が下がる」とも言えるため、事前に福利厚生の程度をリサーチすべきと言えます。
年収+昇給率+福利厚生のトータルで求人を選ぶべきです。
経理に転職した後の「公認会計士資格」について。

経理に転職すると、基本的には「公認会計士」の資格を更新する必要がありません。(独占業務でもなければ、クライアントに名刺を渡すこともないため)
しかし、先述した「発言の信用力」「信頼」といったメリットが得られるため、転職後も資格を維持し続ける方が多いようです。
(参考:組織内会計士ネットワークアンケート)

上記のとおり、(監査法人以外の)組織内で「公認会計士資格」を維持している方が7割です。
なお、CPE単位の取得については、CPE単位の軽減・免除制度があります。
- 名刺等で「公認会計士」の資格を使用していない場合:全単位免除可
- 名刺等で「公認会計士」の資格を使用している場合:20単位を上限に軽減可
名刺などに会計士である旨を記載しない場合、CPEの全単位免除が可能です。
CPE ONLINEから 毎年一定の時期に申請する必要がありますので、この点はお忘れなく。
経理転職後の CPE単位 の取得方法
監査法人では、eラーニングなどで組織内研修を受講することでCPEが付与されました。
では、経理に転職するとCPEはどのように取得するのでしょうか。
これについては「【画像付き】CPE単位の取り方を解説」でやり方を解説しています。
この方法なら、1単位につき15分ほどで取得できますので、かなり楽です。
経理の求人例
会計士向けの「経理」の求人はとても多いですが、具体的にどんな求人があるのか? 一例を見てみます。
会計士向けの経理求人(一例)
求人票にも明記されていますが、上場会社であっても月の残業時間は10時間未満です。
会計士が経理への転職を成功させるポイント

経理の転職先を探す際は、ぜひ「会社の規模」もしっかりと見てください。
大規模な会社の場合、すべての勘定科目を担当するまでには相当の年数を要します。
早い段階から会社全体を把握したい方は、あまりにも大規模な会社を選ばない方が良いかもしれません。
また、複雑なビジネスを展開する企業ほど、作業は分業化されます。
面接の際には、会計論点などの具体的な話までヒアリングしておくと、経理部内でのキャリアをイメージできるでしょう。
内定を承諾する前に、口コミサイトも見てみる
個人的にオススメなのが、口コミサイトです。
事前にこのようなリスクを回避する(または知っておく)ために、口コミサイトの閲覧をおすすめします。
口コミサイトは色々ありますが、最も口コミが多いのはOpenWorkというサイトでした。
もちろん 全ての情報を信じるべきではありませんが、転職時の参考にはなるはずです。
なぜなら、本人特定などのリスクを踏まえた上で、悪い口コミを書いているからです。(相当嫌なことがなければ、そのようなリスクは犯さないはず)
経理への転職は、こんな人におすすめ

経理職は、次のような方にオススメです。
- ワークライフバランスを取り戻したい
- 監査以外の経験をしたい
- ストレスを減らしたい
なお、就労時の一番のストレスは「人間関係」です。
人間関係は 会社やチームによって異なりますから、必ず入社前に、転職エージェント等から内部事情をリサーチしてください。
特に、長く勤務する予定の方はご留意ください。
経理志望の会計士にオススメの転職エージェント
先述のとおり、実際の残業時間・昇給率などは 求人票に明記されないケースが多いです。
そのため 求人票を見て即応募するのではなく、必ず応募前に、転職エージェントに確認すべきです。
なお、会計士が経理に転職する場合には、次の転職エージェントがおすすめです。
経理に強い!
会計士にオススメの転職エージェント Top 3
特にマイナビ会計士は唯一の会計士専門のエージェントですので、事業会社の内部事情をとてもよく理解しています。
エージェント選びで失敗をすると、転職までに多くの時間がかかってしまいます。(私のように)
ぜひ 正しいエージェント を選択し、正しい転職先を見つけてくださいね。