公認会計士・税理士の藤沼です。
大手監査法人(BIG4)で5年ほど働きましたが、現在は中堅・中小監査法人で(非常勤職員として)働いています。
結論としては、「中堅・中小監査法人はとても働きやすい」と感じました。
そこで今回は、中堅・中小監査法人の『年収』『働きやすさ』『その他、働いてみた感想』等々、私自身の体験談も踏まえてお伝えしたいと思います。
想定読者
- 中小監査法人の情報を知りたい方
- 転職を考えている公認会計士の方
目次
中堅・中小監査法人の数・規模

2020年10月29日現在、中堅・中小監査法人は全255法人です。
※ 下記リンクに飛んでいただくと、全監査法人の一覧が確認できます。
>>参考:SCBD-JAPAN(検索結果:「監査法人」)
ただし、中堅・中小監査法人の中でも、人員数やクライアント数など、規模に違いがあります。
中堅・中小監査法人のなかでも、特に規模の大きいものは「準大手監査法人」と定義されています。
準大手監査法人の一覧(カッコ内は従業員数)
- 太陽有限責任監査法人(957名)
- 東陽監査法人(422名)
- 仰星監査法人(331名)
- PwC京都監査法人(307名)
- 三優監査法人(221名)
※ 「準大手監査法人」の定義は、公認会計士・監査審査会が定めたものです。
中小監査法人の中には、従業員5~10名ほどの小さな法人もありますから、上記5法人は(中堅・中小監査法人のなかでは)かなり規模の大きい法人と言えるでしょう。
なお、大手監査法人(BIG4)は従業員数3,000人~6,000人程度です。
中堅・中小監査法人の年収

実際に 監査法人の求人票を閲覧し、年収を比較してみました。
法人規模 | 平均年収 |
---|---|
大手監査法人(10件) | 785万円 |
中小監査法人の監査(20件) | 750万円 |
中小監査法人の監査+アドバイザリ(9件) | 815万円 |
合計(39件) | 774万円 |
アシュアランスだけで比較すると、大手監査法人のほうが35万円ほど高い、という結果でした。
>>関連記事:会計士が転職すると、年収はいくらになる?【全業種調べてみた】
しかし、中小監査法人では「アドバイザリー」にも従事できるケースがあり、そのような求人では年収が大きく上がるようです。(所属はアシュアランスとアドバイザリーの兼務)
また 上記は平均値としての年収ですが、「中央値」は次のとおりです。
法人規模 | 年収(中央値) |
---|---|
大手監査法人(10件) | 762万円 |
中小監査法人の監査(20件) | 782万円 |
中小監査法人の監査+アドバイザリ(9件) | 825万円 |
合計(39件) | 800万円 |
アシュアランスの平均年収は 大手監査法人>中小監査法人 となりましたが、「中央値」では年収が逆転しています。
その他、たとえば非常勤職員の時給単価からも、報酬水準を比較することができます。
大手監査法人では、非常勤職員に対して、4,000~4,500円/時ほどの時給を提示するケースが多いです。
他方、中堅・中小監査法人では、6,000~7,000円/時が平均です。
>>関連記事:公認会計士のバイトの時給は、超高単価です。
大手監査法人の1.5倍です。
中堅・中小監査法人での給与水準が高い理由は、2つあります。
1つ目は、人材不足です。
定期採用では、ほとんどの試験合格者が大手監査法人に流れてしまう為、給与水準を高くすることで人材を確保する必要があります。
2つ目は、監査報酬が高いことです。
監査法人の種類ごと(大手・準大手・その他中小)の監査報酬は、次のとおりです。

>>引用:JICPA「2020 年版 上場企業 監査人・監査報酬 実態調査報告書」
クライアントの売上高に対する監査報酬の割合は、「平均」で見ると大手・準大手・その他中小で、さほど変わりありません。(0.359~0.328%)
一方「中央値」で見ると、大手監査法人が0.092%であるのに対し、準大手監査法人は0.138%、その他中小監査法人は0.161%となっています。
中堅・中小監査法人では、大手監査法人(BIG4)に比べ 間接コストが少ないはずですから、従業員への給与還元割合も高いケースがあるのです。
これは実際の求人票を見ても明らかです。
実際の求人票で、年収を見てみる。
それでは、中堅・中小監査法人の年収を見てみましょう。
中小監査法人の年収
シニアの年収が最低616万となっており、残業を含めるとBIG4を超える計算になります。(月30時間の残業と仮定しても、年収は最低でも724万円を超える)
では、BIG4の年収はどうでしょうか。
こちらも 参考に見てみましょう。
大手監査法人の年収
外資・商社チームとなるため英語力が必要、かつシニア採用で、最低ラインが500万円です。
中堅・中小監査法人に比べ、(最低ラインが)低いです。
決して「中小だから年収が低い」という訳ではないのです。
なお、中小監査法人への転職に関する情報は、「中小監査法人への転職が、意外とおすすめな理由」で詳細に解説しています。
中堅・中小監査法人での働きやすさ

「中堅・中小監査法人って、激務なのでは?」と思われている方も、意外と多いようです。
私は「大手監査法人」と「中小監査法人」の両方で働きました。
個人的な見解ですが、「中小監査法人の方が、働きやすい」と感じています。(もちろん 規模にもよると思いますが。)
大手監査法人で働いていた頃は、
- 早く辞めたい
- 二度と、監査法人では働きたくない
と感じていました。
しかし 今の中小監査法人で働いてみて、「こんなに働きやすい監査法人があるのか…」と感じ、「これなら、しばらく監査やっても良いな…」とさえ感じるようになりました。
残業時間は大幅に減り、人間関係のストレスもなく、とても快適です。
それほどまでに「環境の違い」というのは大きいようです。
中堅・中小監査法人が働きやすい理由
中堅・中小監査法人が働きやすい理由は、次の2点です。
- リスクアプローチが基本
- 経験豊富な会計士が多い
① リスクアプローチが基本
もちろん、大手監査法人でもリスクアプローチに従って監査を遂行しますが、BIG4グローバルの厳しい基準に従い、膨大な量の監査手続が求められます。
たとえば BIG4時代に私が関与していたエンゲージメントでは、売上だけで何百件もの証憑突合を実施していました。
中堅・中小監査法人では、このような厳しいグローバル基準を求められませんから、手続きがより効率的になります。
② 経験豊富な会計士が多い
先述のとおり、中堅・中小監査法人では「新人の採用」が難しいため、自然と 転職組 の会計士の割合が多くなります。
私の契約している中小監査法人も、多くの方が他法人(主に大手監査法人)から転職されてきた方です。
「働きやすい中堅・中小監査法人」を探す際のポイント
もし「働きやすい中小監査法人」「ワークライフバランスの整った中小監査法人」を探したい場合は、次のポイントに注視して、求人を探すと良いでしょう。
働きやすい監査法人を探す際のポイント
- 女性比率
- 離職率
- クライアントの業績
① 女性比率
女性比率が高い法人は、ワークライフバランスが重視されている傾向にあります。
先述のとおり、中堅・中小監査法人は、大手監査法人から転職されてきた方が大半です。
女性会計士の方が転職を決める大きな理由の1つに、「子育て」があります。
つまり、「働きたいけど、私生活の時間も欲しい」という女性の方が多い法人=ワークライフバランスの整っている法人であると言えます。
そのため「働きやすさ」を重視される方には、とても重要なポイントですよ。
② 離職率
「離職率」は、とても重要な指標です。
残業時間と離職率は比例しやすく、たとえば大手監査法人の離職率は非常に高く、若手は5年で半数の会計士が辞めます。
>>関連記事:監査法人の離職率を推定した結果。
一方、中小監査法人の中には、離職率がとても低い法人があります。
そのため、働きやすい監査法人への転職を考える際は、「離職率」もシッカリと見るべきです。
なお、離職率は公式HPなどで公表されません。
知人のツテで確認をするか、転職エージェントから得られる求人票で確認してください。
>>マイナビ会計士なら、無料で求人票を入手できます。
③ クライアントの業績
こちらは保険的ですが、ある程度 監査法人の求人を絞った段階で、クライアントの業績を確認しておくと良いでしょう。
中堅・中小監査法人であれば、クライアント数はさほど多くありませんから、クライアントの業績を調べるのにもさほど時間を要しません。
当然ながら、クライアントの業績が良ければ、監査上の検討事項も少ないですからね。
>>マイナビ会計士なら、無料で求人票を入手できます。
準大手監査法人は、大手監査法人に近い。
「準大手監査法人」も「中小監査法人」に含まれますが、働き方に関しては大手監査法人に近い部分があるようです。
もし入社した場合、「残業したくない」などの要望も通りづらいですから、運よく残業の少ないチームに配属されることを願うほか無いでしょう。
中堅・中小監査法人のデメリット

「年収」「働きやすさ」の面で、中堅・中小監査法人は優遇されています。
しかし、デメリットもあります。
中堅・中小監査法人のデメリット
- 「英語」に触れる機会が少ない可能性
- 「最新の会計処理」に触れる機会が少ない可能性
- 監査調書は「紙ベース」
① 「英語」に触れる機会が少ない
中堅・中小監査法人では、人材に限りがあります。
そのため、高度な英語力を必要とするようなグローバルなクライアントは 少ない傾向にあります。(代わりに、規模の小さなパブリッククライアントの比率が高い傾向)
② 「高度な会計処理」に触れる機会が少ない
中堅・中小監査法人のクライアントは、(大手監査法人に比較すると)規模が小さくなります。
規模の大きな企業では、「最新の会計基準」や「複雑な会計処理」など、多くの検討事項に触れる機会が多くなります。
この点で、中堅・中小監査法人では「高度な会計処理」に触れる機会が比較的少ない傾向にあります。
会計処理の検討は、監査の「面白さ」を感じる場面の1つですから、このような面白味を求めている方には、中堅・中小監査法人はオススメできないかもしれません。
③ 監査調書は「紙ベース」が基本
大手監査法人出身の方は驚かれるかもしれませんが、中堅・中小監査法人では、「紙ベース」で監査調書を作成するケースがほとんどです。
というのも、電子調書システムを整備できないケースがほとんどであり、電子上での承認やアーカイブ等が困難だからです。
そのため、エクセル等で調書を作成→印刷することで調書化することになります。
「印刷するかしないかの違い」とも言えますが、例えば前期調書は「紙」で残っていますから、いちいちガバットファイルを開いて前期調書を確認する必要があります。
中堅・中小監査法人は、こんな人にオススメ

以上を踏まえ、中堅・中小監査法人は、次のような会計士の方にオススメです。
中小監査法人は、こんな人におススメ
- 大手監査法人で主査を経験した方
- ホワイトな環境で働きたい方
- 年収を下げたくない方
私は、今の監査法人と契約して「監査へのイメージ」がだいぶ改善されました。
きちんと情報収集すれば、きっと素敵な法人が見つかるはずですよ。
>>関連記事:中小監査法人への転職が、意外とおすすめな理由