公認会計士・税理士の藤沼です。

独立して以降、会計士からキャリア相談を受けるようになりました。

多くが監査法人在籍者ですが、みんな「辛い、辛い」と言いながらも、なぜか辞めない印象があります。

そこで今回は、「監査法人の離職率」を独自に算出してみました。

なお、(答えだけ知りたい方用に)結論を先に載せます。

 結論

  • 全体の離職率は 約6%
  • 若手の離職率は 約11%

5年以内に半分以上が辞め、10年以内に9割が転職する  という結論です。

前半では算出過程を示し、後半では「なぜ若手が辞めるのか?」リサーチしました。

この記事を書いた人

藤沼 寛夫

藤沼 寛夫

35歳
公認会計士・税理士

2014年  2月 EY新日本監査法人 入社
2018年  7月 FAS系コンサル事務所 入社
2019年10月 藤沼会計事務所 開業
2020年  4月 税理士登録

 

大手監査法人の離職率を算出【全体】

大手監査法人の離職率を算出【全体】

離職率の計算式は、次のとおりです。

離職率(%) = 離職者数 ÷ 起算日における在籍者数 × 100%

※ 厚生労働省の雇用動向調査による方法(一般的なもの)を採用。

次に、離職率算出における仮定です。

 

算出に用いた仮定

監査法人では離職率を公表しないため、推定計算が必要となります。

離職率算出に必要となる基礎データは、次のとおりです。

  • 一時点の在籍者数(公認会計士 及び 試験合格者)
  • 1年間の退職者数(公認会計士 及び 試験合格者)

ただし、1年間の「退職者数」は公開されていないため、次のように推定します。

n2年度の退職者数 = n1年度末の在籍者数 + n2年度の採用者数 – n2年度末の在籍者数

なお、年度末の在籍者数(公認会計士 及び 試験合格者)は、各法人の決算書記載の人員数を採用しました。

ただし、「採用者数」については公表されないため、私がBIG4でリクルートをしていた時の知見を活用します。

 1年間の採用者数(仮定)

定期採用者数中途採用者数
新日本
あずさ
トーマツ
.
250名
.
30名
あらた80名15名

年度によって異なりますが、2015年~2020年の6年間を平均すると  上記のようになります。

※  EY時代の知見を基にしている為、他法人で若干異なる可能性はあります。もし大きく異なる場合はご指摘ください。

 

算出に用いた基礎データ

大手監査法人(新日本・あずさ・トーマツ・あらた)の4法人を対象として検証します。

中小監査法人は、法人ごとに傾向が異なり、私の所属先のように離職率が非常に低いケースもあるため除外しました。

さて、各法人ごとの 在籍者数の推移(6年間)は、次のとおりです。

 在籍者数推移(公認会計士+合格者)

新日本あずさトーマツあらた
2015年4,581名4,246名4,390名1,299名
2016年4,481名4,360名4,392名1,367名
2017年4,312名4,462名4,474名1,475名
2018年4,173名4,472名4,504名1,577名
2019年4,125名4,440名4,511名1,622名
2020年4,142名4,418名4,429名1,675名
平均4,302名4,400名4,450名1,503名

(参考:各法人の決算データ)

 

【結論①】全体の離職率は 約6%

以上の仮定・基礎データを用い、離職率を算出します。

大手監査法人の離職者数

新日本あずさトーマツあらた
2016年380名166名278名27名
2017年449名178名198名△13名
2018年419名270名250名△7名
2019年328名312名273名50名
2020年263名302名362名42名
平均368名246名272名20名

 大手監査法人の離職率

新日本あずさトーマツあらた
2016年8.3%3.9%6.3%2.1%
2017年10.0%4.1%4.5%△1.0%
2018年9.7%6.1%5.6%△0.5%
2019年7.9%7.0%6.1%3.2%
2020年6.4%6.8%8.0%2.6%
平均8.5%5.6%6.1%1.3%

大手監査法人全体の平均離職率は、6.2% でした。

毎年、16人に1人が  離職している計算です。

ちなみに、EY新日本監査法人の2017年~2018年の離職率が大きく増加しているのは、東芝事案によるものと推察されます。

さて、考察はまだ続きます。

 

大手監査法人の離職率を算出【若手】

大手監査法人の離職率を算出【若手】

離職率6%

「あれ?意外と低いな…?」と感じた方は多いはずです。

私もEYで働いていた時、(肌感覚として)約5年で同期が半分くらい減った気がしました。

つまり「年次によって離職率が異なるのでは」との仮定が浮かびます。

そこで、私たちの肌感覚とのズレを検証するため、①年次ごとの離職者数を算出し、②若手の離職率を推計します。

 

年次ごとの離職者の分布(推定)

離職者数の内訳(年次)についても、公表データはありません。

そこで、「OpenWork」という転職者口コミサイトを利用します。

OpenWorkには、大手4法人合計で1,346名(2020年12月現在)の口コミが集積しており、投稿者の「在籍年数」を見ることができます。

つまり  実際の転職者の在籍年数から、離職者の年次を大まかに推定することができます。

算出の過程となる各法人の転職者在籍年数は、次のとおりです。

 大手監査法人の離職者の年次分布(推定)

在籍年数新日本あずさトーマツあらた
1-3年19.4%17.3%20.0%26.1%
3-5年29.2%29.3%26.9%32.4%
5-10年38.8%43.5%40.6%38.1%
10-15年8.5%7.1%11.1%2.3%
15-20年3.9%2.0%1.2%1.1%
20年 –0.2%0.8%0.2%0.0%
合計100%100%100%100%

※ こちらは離職率ではありません。転職者(口コミ投稿者)全体に対する年次の分布です。

大きくまとめると、5年以内に辞めた人が全体の49%、10年以内に辞めた人が全体の41%、11年超で辞めた人が10%です。

なお投稿者数は  それぞれ、新日本:387名、あずさ:352名、トーマツ:431名、あらた:176名でした。(現職者は除外しています。)

推定における母集団数としては、十分な件数と言えます。

 

年次ごとの離職者数(推定)

各監査法人では「試験合格者数」を公表しています。

そこで  やや簡便的な方法ですが、「1年間の離職者数(在籍5年未満) ÷ 試験合格者数」という計算式により、若手の離職率を算出します。

各年度の試験合格者数は、次のとおりです。

大手監査法人の試験合格者数

新日本あずさトーマツあらた
2015年1,173名1,205名1,284名419名
2016年1,135名1,276名1,166名441名
2017年1,077名1,235名1,245名479名
2018年1,049名1,220名1,232名532名
2019年1,074名1,190名1,268名576名
2020年1,160名1,238名1,291名630名
平均1,111名1,227名1,247名512名

また、先述した「大手監査法人の離職者数」に「大手監査法人の離職者の年次分布(3年未満+3~5年の合計)」を乗じることで、若手の離職者数が算定されます。

※ 3年目年次で修了考査が実施されますが、合格率が70%程度(最近はもう少し低いですが)であることを加味し、5年目まで含めることで平仄を合わせます。

大手監査法人の若手の離職者数(推定)

新日本あずさトーマツあらた
2016年185名77名130名16名
2017年218名83名93名△8名
2018年204名126名117名△4名
2019年159名145名128名29名
2020年128名141名170名25名
平均179名114名128名12名

長くなりましたが、やっと結論です。

 

【結論②】若手の離職率は 約11%

「大手監査法人の若手の離職者数(推定)」を「大手監査法人の試験合格者数」で除すことで、各年度の若手の離職率を算出します。

 大手監査法人の若手の離職率

新日本あずさトーマツあらた
2016年15.7%6.4%10.1%3.8%
2017年19.2%6.5%8.0%△1.7%
2018年18.9%10.2%9.4%△0.9%
2019年15.2%11.9%10.4%5.5%
2020年11.9%11.8%13.4%4.3%
平均16.2%9.3%10.3%2.4%

全体の離職率が6%であるに対し、若手(在籍5年未満)の離職率は 約11%となりました。(大手4法人の平均)

つまり、「5年以内に同期が半分減る」という私たちの肌感覚は、わりと正しいことが分かりました。

ちなみに「5~10年目の離職者数」も 「5年以内の離職者数」に近似しており、10年後に同期が在籍している割合は10%程度と推定されます。

 

なぜ、監査法人では若手の離職率が高いのか

なぜ、監査法人では若手の離職率が高いのか

以上の推定計算により、監査法人入所後5年で半数以上が辞める事が分かりました。

意外と皆さん、裏では転職活動をしているのです。

では何故、若手会計士はすぐに転職するのでしょうか。

ここでも、先述のOpenWorkを情報ソースとして、多かった転職理由をピックアップしました。

 若手の転職理由

  • 激務であり、長期的にこの仕事をすることは難しい
  • 監査経験ではつぶしが効かず、将来に不安がある
  • 転職した方が、年収が高い

会計士の転職先の中でも、「監査法人」はわりと激務な方です。

監査法人で働いていると、「忙しさ」「経験の狭さ」への不満はよく耳にします。

しかし、「転職した方が年収が上がる」という話はあまり耳にしませんね。

それもそのはずで、転職後の話は法人を辞めた方しか知らないため、監査法人内では耳にしないのです。

年齢を重ねるに従い、転職市場での価値も下がってしまう為、早期に収入を高めるために転職する会計士が多いようです。

ちなみに 私の場合は、監査法人を4年半で辞め、転職後の年収は200万ほど上がりました。(700万→900万)

そのほか、公認会計士の転職理由については【なぜ?】会計士が転職する理由アンケート結果【実態調査と分析】でリサーチ結果をまとめています。

 

まとめ:監査法人からの転職を考えるタイミング

まとめです。

 監査法人の離職率まとめ

  • 大手監査法人の平均離職率:約6%
  • 入社5年以内の離職率:50%超

公認会計士登録を終えた段階で、私たち会計士の市場価値はグッと上がります。

登録のタイミングで求人を閲覧し、市場価値の高さに気付き、転職を考える方が多いのでしょう。

また  監査法人を辞めるタイミングは人それぞれですが、転職活動を始めるタイミングは早い方が良いようです。

外の世界を見てみると、多くの 機会損失 に気付けるかもしれません。

これを機に、会計士としてのキャリアを考えてみると良いかもしれませんね。

長くなりましたが、離職率の考察・結論は以上です。

本記事を読んでいただき、ありがとうございました。

公認会計士・税理士
藤沼 寛夫