公認会計士・税理士の藤沼です。
独立して以降、会計士からキャリア相談を受けるようになりました。
そこで今回は、「監査法人の離職率」を独自に算出してみました。
なお、(答えだけ知りたい方用に)結論を先に載せます。
結論
- 全体の離職率は 約6%
- 若手の離職率は 約11%
5年以内に半分以上が辞め、10年以内に9割が転職する という結論です。
前半では算出過程を示し、後半では「なぜ若手が辞めるのか?」リサーチしました。
目次
大手監査法人の離職率を算出【全体】

離職率の計算式は、次のとおりです。
※ 厚生労働省の雇用動向調査による方法(一般的なもの)を採用。
次に、離職率算出における仮定です。
算出に用いた仮定
監査法人では離職率を公表しないため、推定計算が必要となります。
離職率算出に必要となる基礎データは、次のとおりです。
- 一時点の在籍者数(公認会計士 及び 試験合格者)
- 1年間の退職者数(公認会計士 及び 試験合格者)
ただし、1年間の「退職者数」は公開されていないため、次のように推定します。
なお、年度末の在籍者数(公認会計士 及び 試験合格者)は、各法人の決算書記載の人員数を採用しました。
ただし、「採用者数」については公表されないため、私がBIG4でリクルートをしていた時の知見を活用します。
1年間の採用者数(仮定)
定期採用者数 | 中途採用者数 | |
---|---|---|
新日本 あずさ トーマツ | . 250名 | . 30名 |
あらた | 80名 | 15名 |
年度によって異なりますが、2015年~2020年の6年間を平均すると 上記のようになります。
※ EY時代の知見を基にしている為、他法人で若干異なる可能性はあります。もし大きく異なる場合はご指摘ください。
算出に用いた基礎データ
大手監査法人(新日本・あずさ・トーマツ・あらた)の4法人を対象として検証します。
中小監査法人は、法人ごとに傾向が異なり、私の所属先のように離職率が非常に低いケースもあるため除外しました。
>>関連記事:中小監査法人への転職が、意外とおすすめな理由
さて、各法人ごとの 在籍者数の推移(6年間)は、次のとおりです。
在籍者数推移(公認会計士+合格者)
新日本 | あずさ | トーマツ | あらた | |
---|---|---|---|---|
2015年 | 4,581名 | 4,246名 | 4,390名 | 1,299名 |
2016年 | 4,481名 | 4,360名 | 4,392名 | 1,367名 |
2017年 | 4,312名 | 4,462名 | 4,474名 | 1,475名 |
2018年 | 4,173名 | 4,472名 | 4,504名 | 1,577名 |
2019年 | 4,125名 | 4,440名 | 4,511名 | 1,622名 |
2020年 | 4,142名 | 4,418名 | 4,429名 | 1,675名 |
平均 | 4,302名 | 4,400名 | 4,450名 | 1,503名 |
(参考:各法人の決算データ)
【結論①】全体の離職率は 約6%
以上の仮定・基礎データを用い、離職率を算出します。
大手監査法人の離職者数
新日本 | あずさ | トーマツ | あらた | |
---|---|---|---|---|
2016年 | 380名 | 166名 | 278名 | 27名 |
2017年 | 449名 | 178名 | 198名 | △13名 |
2018年 | 419名 | 270名 | 250名 | △7名 |
2019年 | 328名 | 312名 | 273名 | 50名 |
2020年 | 263名 | 302名 | 362名 | 42名 |
平均 | 368名 | 246名 | 272名 | 20名 |
大手監査法人の離職率
新日本 | あずさ | トーマツ | あらた | |
---|---|---|---|---|
2016年 | 8.3% | 3.9% | 6.3% | 2.1% |
2017年 | 10.0% | 4.1% | 4.5% | △1.0% |
2018年 | 9.7% | 6.1% | 5.6% | △0.5% |
2019年 | 7.9% | 7.0% | 6.1% | 3.2% |
2020年 | 6.4% | 6.8% | 8.0% | 2.6% |
平均 | 8.5% | 5.6% | 6.1% | 1.3% |
大手監査法人全体の平均離職率は、6.2% でした。
毎年、16人に1人が 離職している計算です。
ちなみに、EY新日本監査法人の2017年~2018年の離職率が大きく増加しているのは、東芝事案によるものと推察されます。
さて、考察はまだ続きます。
大手監査法人の離職率を算出【若手】

離職率6%
この結論を見て、「あれ?意外と低いな」と感じた方は多いはずです。
つまり「年次によって離職率が異なるのでは」との仮定が浮かびます。
そこで、私たちの肌感覚とのズレを検証するため、①年次ごとの離職者数を算出し、②若手の離職率を推計します。
年次ごとの離職者の分布(推定)
離職者数の内訳(年次)についても、公表データはありません。
そこで、「OpenWork」という転職者口コミサイトを利用します。
つまり 実際の転職者の在籍年数から、離職者の年次を大まかに推定することができます。
算出の過程となる各法人の転職者在籍年数は、次のとおりです。
大手監査法人の離職者の年次分布(推定)
在籍年数 | 新日本 | あずさ | トーマツ | あらた |
---|---|---|---|---|
1-3年 | 19.4% | 17.3% | 20.0% | 26.1% |
3-5年 | 29.2% | 29.3% | 26.9% | 32.4% |
5-10年 | 38.8% | 43.5% | 40.6% | 38.1% |
10-15年 | 8.5% | 7.1% | 11.1% | 2.3% |
15-20年 | 3.9% | 2.0% | 1.2% | 1.1% |
20年 – | 0.2% | 0.8% | 0.2% | 0.0% |
合計 | 100% | 100% | 100% | 100% |
※ こちらは離職率ではありません。転職者(口コミ投稿者)全体に対する年次の分布です。
なお投稿者数は それぞれ、新日本:387名、あずさ:352名、トーマツ:431名、あらた:176名でした。(現職者は除外しています。)
推定における母集団数としては、十分な件数と言えます。
年次ごとの離職者数(推定)
各監査法人では「試験合格者数」を公表しています。
そこで やや簡便的な方法ですが、「1年間の離職者数(在籍5年未満) ÷ 試験合格者数」という計算式により、若手の離職率を算出します。
各年度の試験合格者数は、次のとおりです。
大手監査法人の試験合格者数
新日本 | あずさ | トーマツ | あらた | |
---|---|---|---|---|
2015年 | 1,173名 | 1,205名 | 1,284名 | 419名 |
2016年 | 1,135名 | 1,276名 | 1,166名 | 441名 |
2017年 | 1,077名 | 1,235名 | 1,245名 | 479名 |
2018年 | 1,049名 | 1,220名 | 1,232名 | 532名 |
2019年 | 1,074名 | 1,190名 | 1,268名 | 576名 |
2020年 | 1,160名 | 1,238名 | 1,291名 | 630名 |
平均 | 1,111名 | 1,227名 | 1,247名 | 512名 |
また、先述した「大手監査法人の離職者数」に「大手監査法人の離職者の年次分布(3年未満+3~5年の合計)」を乗じることで、若手の離職者数が算定されます。
※ 3年目年次で修了考査が実施されますが、合格率が70%程度(最近はもう少し低いですが)であることを加味し、5年目まで含めることで平仄を合わせます。
大手監査法人の若手の離職者数(推定)
新日本 | あずさ | トーマツ | あらた | |
---|---|---|---|---|
2016年 | 185名 | 77名 | 130名 | 16名 |
2017年 | 218名 | 83名 | 93名 | △8名 |
2018年 | 204名 | 126名 | 117名 | △4名 |
2019年 | 159名 | 145名 | 128名 | 29名 |
2020年 | 128名 | 141名 | 170名 | 25名 |
平均 | 179名 | 114名 | 128名 | 12名 |
長くなりましたが、やっと結論です。
【結論②】若手の離職率は 約11%
「大手監査法人の若手の離職者数(推定)」を「大手監査法人の試験合格者数」で除すことで、各年度の若手の離職率を算出します。
大手監査法人の若手の離職率
新日本 | あずさ | トーマツ | あらた | |
---|---|---|---|---|
2016年 | 15.7% | 6.4% | 10.1% | 3.8% |
2017年 | 19.2% | 6.5% | 8.0% | △1.7% |
2018年 | 18.9% | 10.2% | 9.4% | △0.9% |
2019年 | 15.2% | 11.9% | 10.4% | 5.5% |
2020年 | 11.9% | 11.8% | 13.4% | 4.3% |
平均 | 16.2% | 9.3% | 10.3% | 2.4% |
全体の離職率が6%であるに対し、若手(在籍5年未満)の離職率は 約11%となりました。(大手4法人の平均)
ちなみに「5~10年目の離職者数」も 「5年以内の離職者数」に近似しており、10年後に同期が在籍している割合は10%程度と推定されます。
なぜ、監査法人では若手の離職率が高いのか

以上の推定計算により、監査法人入所後5年で半数以上が辞める事が分かりました。
意外と皆さん、裏では転職活動をしているのです。
では何故、若手会計士はすぐに転職するのでしょうか。
ここでも、先述のOpenWorkを情報ソースとして、多かった転職理由をピックアップしました。
若手の転職理由
- 激務であり、長期的にこの仕事をすることは難しい
- 監査経験ではつぶしが効かず、将来に不安がある
- 転職した方が、年収が高い
会計士の転職先の中でも、「監査法人」はわりと激務な方です。
>>関連記事:公認会計士の転職先を全て見せます【監査法人から、その先へ】
監査法人で働いていると、「忙しさ」「経験の狭さ」への不満はよく耳にします。
しかし、「転職した方が年収が上がる」という話はあまり耳にしませんね。
年齢を重ねるに従い、転職市場での価値も下がってしまう為、早期に収入を高めるために転職する会計士が多いようです。
ちなみに 私の場合は、監査法人を4年半で辞め、転職後の年収は200万ほど上がりました。(700万→900万)
>>関連記事:会計士が転職すると、年収はいくらになる?【全業種調べてみた】
そのほか、公認会計士の転職理由については「公認会計士の転職理由【更新中】」でリサーチ結果をまとめています。
まとめ:監査法人からの転職を考えるタイミング
まとめです。
監査法人の離職率まとめ
- 大手監査法人の離職率は 約6%
- 大手監査法人の若手の離職率は 約11%
- 5年以内に、半数以上が転職する
公認会計士登録を終えた段階で、私たち会計士の市場価値はグッと上がります。
おそらく 登録のタイミングで求人を閲覧し、市場価値の高さに気付き、転職を考えはじめる方が多いのでしょう。
>>関連記事:会計士が転職する最適なタイミングと時期は?【更新中】
外の世界を見てみると、多くの 機会損失 に気付けるかもしれません。
これを機に、会計士としてのキャリアを考えてみると良いかもしれませんね。
長くなりましたが、本記事を読んでいただき ありがとうございました。
公認会計士・税理士
藤沼 寛夫